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ちゃらお君の寂寥(2)にしおりをはさみました!
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ちゃらお君の寂寥(2)
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土曜の夜。恭弥は今日もあのバーに来ていた。
恭弥はバーの常連であるが、月に数回訪れる程度であった。そのためあの日から数日、毎日通って来ていることにマスターは少なからず驚いていた。しかも、いつもは誘われれば余程タイプでない限り相手をするというのに見向きもしないのだ。出入口の扉が見える位置の席を陣取り、1人黙々と酒を飲んでいた。そしてチリンっと入店音がなる度にその視線がちらりと扉を向くことをこの数日でマスターは気がついていた。
(そろそろだろうな…)
マスターこと加賀見樹(かがみ いつき)はワイングラスを拭きながらそう考えていた。あの夜、学生時代からの友人である静が恭弥をどうしたのかを加賀見は知らないが恭弥の様子を見ていると連絡先など何も教えなかったのだろう。
翌日の夜にまた訪れた恭弥が加賀見に昨日はどうなったのか尋ねたがある男が君を抱えて帰った、としか伝えなかった。恭弥は複雑そうな顔で迷惑をかけたと詫びたが加賀見は肩を竦めるだけだった。
静が恭弥に連絡先を教えなかったのなら加賀見が何かを言うのはお門違いというものだ。いくら静が友人でも…いや友人だからこそ静が何を狙っているのか分かる。チラリと落ち着かない様子の恭弥を見た加賀見は
(お前の狙い通り、お前が気になって仕方ないみたいだぞ。早く来てやれよ)
と心の中で静に言うがそれだけだ。
それから1時間ほど経って深夜1時を回ると客足は遠のき、店内の人も疎らになる。店自体は基本的に客がいなくなるまで開けているのだが、どんどんと人の減る様子に恭弥は意気消沈している。
(もう来ないかな…)
諦めた方が良いだろうかと落ち込む。正直なところ、恭弥は相手の顔をあまり覚えていない。見ればわかる!なんて自信を持って言える訳でもない。会ってどうしたいのか、どうするつもりなのかもわからない。けれど、ただもう一度会いたかった。確かめたかった。
ずっと、どこか漠然とした不安を抱えていた。自分を偽って生きてきた。同類ではなくなった斗真を見ていると虚無感に押しつぶされそうだった。そんな感情をずっと押し殺していたというのに、あの夜以降それが出来なくなった。一度与えられた幸福感を、充足感を、人間は忘れることなどできない。それがより一層恭弥に寂寥を募らせた。
もう諦めて帰ろうか、忘れてしまおうなどと出来もしないことを考えていた恭弥は入店音のベルに気が付かなかった。手に持っていたグラスに影が落ちてようやく顔をあげようとした時、ポンっと頭に何かが落ちてきた。驚いて固まっているとそれはするりと顬まで降りてきてそのまま頬を伝って顎に触れ、擽るように撫でたかと思うと、くいと上へと持ち上げられた。抵抗せず引っ張られるままに顔を上げるとそこには恭弥が渇望していたとさえ言える甘い瞳があった。
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