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夜にしおりをはさみました!
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夜
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それから特に会話はなかった
カタカタとリズムのいいタイピングの音と、じっとしてるのに飽きて勝手につけたテレビの音が小さく響く部屋の中。
夜は昼間と違って足音や電車、遠くから聞こえる会話の声とか、そういうのが少なくて静か。
意外と落ち着ける。
たまに紘がパソコンを見ながら「どうすっかなぁ」なんて呟くから「なんでもいいと思う」と特に返事を求められている訳でもないのに適当に返して、それを聞いた紘に髪をくしゃりと撫でられる
「…トイレ」
「は?行ってこい。漏らすなよ」
「漏らさねーよ」
俺の事を片手で軽く抑えていた手が離され、開放される
少し逆上せていたせいで起きていた目眩も、熱っぽさも随分治まってきていた
欠伸をしながら廊下を歩いていたらドアに激突した
最近ぼーっとしてるとよく色んな物にぶつかる
この前風呂場で滑って頭を打ったのと、段差につまずいて足首をひねったのは痛かった
リビングから「大丈夫かー」と声が届いて「ん。」と返事をする
ぶつけた額を撫でながらトイレに入る
別に俺ドジっ子キャラじゃないし気をつけないと。
紘にこの事を話したら「ぼーっとするがほんとにぼーっとしてんだよ」とかよく分からないことを言われた
用を足し終え、今度は何にもぶつからないように気をつけながらリビングに戻ると紘はパソコンを閉じ、テレビを消しているところだった
「寝る?」
「あぁ、寝るか」
時計を見れば1:30だった。
近くまで寄ると額を撫でられ、「気をつけろ」と注意される
「欠伸してたらぶつかった」
背中を押されながら寝室に向かい、ベッドに入れられる
「寒い」
ぎゅ。とくっつけば優しく抱きしめ返される
「おやすみ」
「…お前明日仕事?」
「そう仕事」
「んぅー」
「何」
「なんでもない…」
紘は仕事。
学生は学校。
社会人は仕事。
俺は社会人なのに家でじっとしてるだけ。
社会的に俺は今必要のない人間。
…焦る。
ちゃんと、仕事をしないとって。
でも、出来なくて、…しないといけなくて。
紘の胸にぎゅっと頭を擦り付ける
「───律は律。
お前はお前しか居ないんだから周りに合わせる必要なんてねぇんだよ。
俺も俺しかいなくて、だからこそ俺にしかできない事がある
その為の休憩とか、自分の在り方とか、そういうものを気づかせてくれたのはお前。
俺はお前に感謝してんだよ」
ゆっくり、子守唄みたいに囁かれる
背中をぽんぽんと撫でられていることに気づいた
「初めてお前にあったとき、そう気づかされた
俺もできる事なら、お前の力になりたい」
「………なってる…」
「なれてる?それは良かった」
「…紘」
…ひろ。
「もう、どうした。」
分からない。
涙が勝手に出てきて、布団まで濡らしてしまった
「大丈夫。
お前が頑張ってんの、俺は知ってる」
だから自分のこと責めんな。
……そんな、苦しくなること…言わないで。
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