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愛しいひと… 25にしおりをはさみました!
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愛しいひと… 25
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疲労の色を隠せない、泣き腫らした目をした、どこかぼんやりとしたアキラが鬣犬の股座に抱かれている。
もう時間の感覚のないアキラには、今が昼間なのか夜なのか、そしてここに連れて来られてからどれくらいの時間が経っているのかまったくわからなかった。
先程、漸く何度目かの吐精を果たし、繋がりを解いた鬣犬は、丁寧な手つきでアキラを清め、今現在食事を摂っている。
前回の……朝食だった訳だが……食事は緊急の備蓄食のようなものだったが、今回は何かの肉や芋がたくさん入ったシチューとナンのような薄パン、そして鬣犬が手ずから捥いできた柑橘系の果物が供されていた。
怠そうに凭れかかるアキラの口にシチューに浸した薄パンが運ばれる。
ホクホクに煮込まれた芋は思いの外気に入ったようで素直に食していた。
そのアキラが突然口を開く。
「鬣犬さん……僕、誰にも言わないから……もう……帰して下さい」
腰に回されていた手が大きく動いて次の瞬間、アキラは息が出来ないほど強く抱き締められていた。
「姫君……姫君っ! 私は……私は」
「兄者?」
部屋の入り口で、吃驚した表情の鬣犬の女性が危うく葡萄の入った盆を取り落としそうになっていた。
白茶の被毛と灰青色の瞳を持つ鬣犬獣人の女性……
「妹さん……なの?」
「はい、姫君……私一人では姫君のお世話にも限度がありますので、縄張りから呼び寄せました」
「はじめまして、天女様」
ここでアキラは、本当に今更なのだが、このグループの鬣犬には【名前】が無い事を知った。
道理でいつまでも【鬣犬さん】と呼ばされていた訳だ。
妹が現れた事で気まずそうに腕をほどいた鬣犬は、まじまじとアキラを見つめた。
鰐王をはじめ、錚々たる夫たちが甘やかすだけ甘やかしている天上の姫。
中洲での宴でも食事の世話はすべて鰐王が担っていた。
アヌビスの戦神殿と砂漠の蠍王は姫君の身の回りの世話役を取り合っているという。
そのとき、繊指が伸びて葡萄の房から一粒……つまみあげた粒を口に運び、器用に皮を出してみせた。
……甘さが気に入ったのだろう、手指と口の周りを汁だらけにして食べ続けるアキラの口を舐めてやっていて……自然とそういう雰囲気になっていく……
おもむろに横抱きして、立ち上がって、寝所にしている部屋に向かう鬣犬。
彼だって痛いほどわかっている……
早晩、この愛しいひとを本来の住処へ還さなければならない事を。
そしてそれは、永遠の別れを意味していて……
鬣犬は、アキラのすべてをその目に刻み込み、その薫りを、その手触りを我がものとして旅立つつもりでいた。
「姫君……私を拒まないで下さい……
【太古の婚姻】を行った私たちは夫婦になったのですよ」
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