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二人で夜道を並んで歩く。
有坂とこうやって時間が取れたのは旅館から帰ってきた日以来だ。
繋いだ手はずっとそのままで、なんだか夏祭りの日を思い出してしまう。
夜道で周りに誰もいないとはいえ通学路だし、有坂はそれに気付いて一度離そうとしたが、俺が掴んで離さなかった。
今は俺との時間なんだ。
やっと取れた時間で、めちゃくちゃ久しぶりなんだ。
手を繋ぐくらいいいだろ。
「なあ有坂、新人戦いつ?今日なんで部活なくなったんだ?」
「今週末だ。顧問が外部会議で不在のため休みになった」
「じゃあまた試合見に行っていい?この間すげー楽しかったしまた有坂の応援もしたいしさ、それに俺ちょっと野球の本読んで勉強したからこの間よりももっと分かって見れると思うし――」
話しながらドキドキとテンションが上がっていくのが分かる。
やばい。
話したいことが止まらない。
今日は有坂が誘ってくれたわけだし、きっと話しかけるななんて言われないはずだ。
今まで遠慮しまくってた分、たくさん話をしたい。
もうこのまま一生家に着かなければいい。
「駄目だ」
が、バッサリと落ちてきた言葉に衝撃を受けた。
ペラペラ回っていた舌も止まって、フリーズしたまま有坂を見つめる。
「今回は少し場所が遠い。それに最終試合だから時間が遅くなっては困る」
「…あ、なんだ。俺のこと心配してくれたのか?」
「そうだ。俺は部活中のため結城を送れない」
有坂の言葉にホッと胸をなでおろす。
なんだよ、また拒否られたのかと思っただろーが。
若干心にヒビが入りかけたわ。
「じゃあハルヤンと一緒に行けたら見に行くな」
ニッと笑顔を向けて言うと、有坂の表情が強張る。
「…分かった」
そう言ってくれたけど、珍しくどこか不満そうに視線を逸らされた。
それから演劇の話とか文化祭の話とかたくさん有坂と話した。
話すと言っても安定の俺が一方的に話し掛けてるだけだが、有坂はちゃんと話を聞いてくれる。
夏休みに戻ったみたいで夢中で会話をしていた。
駅の中ではさすがに手は繋げないが、電車を降りて駅を出たら自然とまた手を繋ぐ。
有坂と二人でいることが嬉しくて堪らない。
だけど俺の家は、有坂と一緒にいるといつだってあっという間に見えてきてしまう。
「まだ一緒にいたい」
有坂を見上げてギュッと手を握り返す。
帰りたくない。
まだ話がしたい。
もっとたくさん有坂との時間が欲しい。
「…あまりそう言う事を言わないでくれ」
だけどどこか困ったような表情でそう言われて、ビクリとしてしまう。
またしても何か拒否られるのかと不安になったが、不意にグイと繋いでいた手を引っ張られた。
そのままいつもとは別の道へ入る。
有坂が俺の希望を叶えてくれたことを知って、胸がいっぱいに満たされていく。
やっぱり有坂は優しい。
俺には有坂しかいないんだ。
ハルヤンが刷り込みだとか言ってたが、それならそれでもいい。
こんな風に一緒にいるとめちゃくちゃ幸せな気持ちになれるのは、絶対に有坂しかいない。
ドキドキと鳴る心臓は、どんどん早くなっていく。
「な、文化祭。有坂は何してるんだ?」
「演劇に参加するが」
「そーじゃなくて、他の時間の話」
「同好会の出し物に参加する予定だ」
くそ、相変わらず忙しい奴だな。
俺は今だかつて、文化祭を友達と一緒に回ったことがない。
友達がいないから当たり前だが、去年は喫茶店のウェイターでほとんど店番させられたし、終わっても女子に取り囲まれてサイン書かされたり写真取られまくったりして大変だった。
でも今年は有坂がいる。
文化祭を友達と一緒に遊んで回るのはめちゃくちゃ憧れだ。
ぼっちがきつくて始まる前に帰っていた後夜祭も、有坂がいるなら参加出来るかもしれない。
「少しでいいから一緒に回りたい。ダメか?」
こんなこと今しか言えないかもしれない。
またいつ拒否られるかも分からないし、この機会に少しでも有坂の気持ちを繋ぎ止めておきたい。
そう思って聞いた言葉だったが、有坂は少し考えるように押し黙る。
しばらくのあと、口を開いた。
「…すまないが、俺はまだ結城への気持ちの整理が出来ずにいる」
――ドクリ、と心臓が音を立てた。
それはずっと避け続けていた会話。
いっそ無かったことにしてしまおうかと、このままフツーに話してたらすっかり忘れて友達に戻れるんじゃないかと見て見ぬふりをしていた気持ち。
だけど有坂は、まだ忘れてはいない。
「しばらく結城と離れて、少しは頭が冷えたと思っていた。だがやはり側にいるとどうしても気持ちが追いつかない」
「…ま、まだ俺のこと好きなのか?」
「好きだ」
何の淀みもなく言われた言葉。
それは親友関係を望む俺にとっては最悪の事態で、あってはならない感情だ。
言葉に詰まって視線を伏せると、有坂がそっと俺の手を離した。
「すまない。やはりこんな気持ちを抱えたままでは気持ちが悪いだろう」
「き、気持ち悪いとか有坂に思うわけないだろ。俺は有坂がいいんだ。絶対有坂に側にいてほしくて…」
「それは友人としてだろう。俺はその関係を望んでいない」
「――それは…そうだけど…」
不安になる。
このままじゃまた有坂が離れていってしまいそうだ。
もうあんな気持ちになるのも、拒否られるのも嫌だ。
「…じゃ、じゃあ俺のこと好きでいいから一緒にいるのはダメか?」
「それは――」
「い、一緒にいたいんだ。有坂がいないと絶対に嫌なんだ。俺は有坂が大好きで――」
これはたぶん、俺の悪い癖なんだろう。
なんでもゴリ押せばきっと思い通りになると信じてる。
有坂は優しいから、最終的には俺に合わせてくれるとどこかで思ってる。
必死に訴えていると、不意に肩を押された。
今までに向けられたことのないような強い力で、強引に後ろの塀に押し付けられる。
有無を言わせぬ力強さは紛れもなく男のもので、いつもの優しい触れ方なんてどこにもない。
逃さないというように俺の顔横に手をついて、もう片方の手で顎を取りクイと上向かされた。
ハッとすると同時、黒い瞳が僅かなその距離を詰める。
唇に当たる、柔らかい感触。
一度触れては離れて、すぐに啄むようなキスに変わる。
夏祭りの時の光景が、一瞬で頭に蘇ってくる。
「――っありさ…」
慌てて抵抗しようと口を開くと、その隙間から舌が入り込んできた。
ビクリと身体が強張る。
熱い舌が俺の口内に入り込み、驚きに引っ込んだ舌を無理やり絡め取る。
好き勝手に俺の舌を弄び、ちゅ、ちゅと音を立てて何度も吸いつかれる。
ゾクゾクと背筋が痺れて、知らない感覚に身体が震えた。
なんだこれ。
こんなキスは知らない。
ドカッと一気に全身に熱が上り、頭が沸騰しそうになる。
息が出来なくて目の前の身体を押し返そうとしたが、後頭部を押さえつけられてより深く唇を貪られる。
こんな求め方は知らない。
俺が欲しいと言っている言葉の何倍も有坂に酷く求められていることを知って、指先までビリビリと痺れるような感覚が駆け抜ける。
まさかこんな事をいきなり有坂がしてくるとは思わなかった。
抵抗しようにもしっかり押さえつけられてどうにもならないし、呼吸が出来なくて今にも溺れそうだ。
心臓が煩いほどバクバク言っていて、頭が真っ白になっていく。
ようやく唇を離された時は、もうどこか放心状態で有坂を見つめていた。
どんな勢いで謝罪してくるのかと思ったが、有坂は一言も謝らなかった。
ただどこか苦しそうな瞳が俺を見つめる。
「…俺と一緒にいるという事は、こういう行為を受け入れるということだ。もう分かってくれ」
有坂は切なげにそう言って、俺の身体を離した。
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