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87にしおりをはさみました!
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87
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その日、朝から俺の周りはざわざわしていた。
いやいつもざわざわしてるが、いつもよりなんかギャラリーが多い。
みんな俺に何か言いたげな視線を寄越してくるが、まあいつも通り誰も話しかけてこないし目が合えばサッと赤い顔で逸らされる。
だけど俺の後ろに気付けば行列が出来てるくらいにはコソコソ追いかけられている。
一体なんなんだ。
とはいえ学校に行けば有坂がいる。
有坂だけはいつもと変わらず俺に挨拶をしてくれて、ちゃんと目も合わせてくれる。
昼休みになれば一緒に弁当を食って、他愛もない話をする。
ちなみに今日の弁当はデコ弁だ。
昨日の夜久しぶりに海外に住んでる一番上の兄貴――サダ兄と電話をして、どんな弁当を貰ったら嬉しいか聞いてみたら「愛妻弁当はハートマークに決まってんだろ」って言われた。
なかなか古典的だが、そういやサダ兄と有坂ってちょっと似てるところがあるかもしれない。
そんなわけで手間暇かけて作ってみたら、有坂は今日も綺麗に食べてくれた。
「マッスー、この間のマジ?」
授業が終わって帰ろうとしたら、廊下でハルヤンに声を掛けられた。
いつもの腹立つニヤけ顔で俺のところへ来たが、その背後で女子が泣いている。
一体何したんだ。
「…お前アレいいのかよ」
「あれ、マッスーも人の事気にするんだ。いやーどうしようもなくなったら泣けばいいと思ってる女子って鬱陶しいよね」
「ああ、女ってそういうところめんどくせーよな」
さらっとハルヤンの言葉に返してやる。
実際女と付き合ったことないから知らないが、水瀬がこの間のドラマでそう言ってた。
「ぷ、さすがありちゃんと一線超えただけあって言うことが違うね」
「――っなんでそれ…」
「あ、やっぱりそうだったんだ。どうだった?初エッチは」
堂々と聞いてくるから、こっちが焦る。
ハッとして周りを見回すと、女子たちが嬉々とした顔で俺達を見ている。
慌ててハルヤンを引っ張った。
「ど、どうもこうもねーよ。有坂とヤバイ関係になっちまった」
「男同士でキスしてる時点でとっくにヤバイ関係になってると思うけど」
ハルヤンの言葉に衝撃を受ける。
言われてみればその通りじゃねーか。
とりあえず人気のない渡り廊下まで来ると、コソコソとハルヤンにあの日の出来事を話す。
有坂に襲われたこと。
最後までされてしまったこと。
「へー、ありちゃん淡白そうな顔してやるねえ。ていうか結局付き合ってないんだ?セフレ?」
「おいっ、人聞き悪いこと言ってんじゃねーよ」
「いやエッチして付き合ってないならそうでしょ」
マジかよ。
俺達はいつの間に親友からセフレになっていたんだ。
「ありちゃんは何て言ってんの」
「有坂は…」
ハルヤンの言葉に視線を俯かせる。
有坂はあれ以来俺に何もしてこないどころか、触ってもこない。
この間ちょっとだけ駅で触ってくれたけど、でもまた触ってくれなくなってしまった。
俺の事を気遣ってそうしてくれてるのは分かるけど、でもやっぱり物足りない。
あんなにキスして求められて、触れられたことはもう無かったみたいになってる。
「あ、ありちゃんと朝宮さんだ」
「――なにっ!?」
その言葉に秒で反応して顔を上げる。
ハルヤンの視線の先を追って渡り廊下の窓から下を見てみれば、野球部の格好した有坂と朝宮さんがいた。
何か話してる、と思ったら有坂が朝宮さんの髪に手を伸ばす。
――ドクリ、と嫌な心音が鳴った。
愕然と二人を見つめていたら、今度は朝宮さんが背伸びをして有坂の額を小突いている。
なんだあれ。
嘘だろ。
ありえない。
衝撃的な光景に眩暈がして、目の前が真っ暗になる。
しばらく呆然としてから、俺は一つの答えを導き出した。
「そっか、夢だ」
「いや現実だからね?」
すかさずハルヤンのツッコミが飛んできた。
ギロリと隣を睨んだが、すぐに心が折れて俺はずるりとその場に蹲る。
有坂が俺以外の奴を触ってた。
しかもお返しとばかりに触られてもいた。
無理だ。
あんなの絶対に嫌だ。
耐えられない。
「…いやまあ、ありちゃんに限って何もないとは思うけどさ。でもセフレのままって事は、ありちゃんが他の子と何しても文句は言えないけど」
「だから俺達はセフレじゃねーって…」
「最後までしたのに?」
グッと言葉に詰まる。
ハルヤンが言いたいことは分かる。
でもそんな当たり前に男同士で付き合うものなのか?
そんな簡単にこの関係って受け入れていいのか?
今は良くてもその先は?
家族とか周りはどうすんだ?
考えれば考えるだけヤバイ関係にしか俺は思えない。
だったら俺は有坂と友達でいたい。
俺の大切な親友なんだって、胸張って誰にでも紹介出来る人であってほしい。
「…で、でも有坂だって最後までしたのに『してない』って俺に言ったんだぞ」
「えっ、ありちゃんが?」
思い返してみるが、確かにそう言ってた。
有坂に限ってまさか誤魔化そうとしてるわけじゃないよな。
「とりあえずケツにぶち込まれたんじゃないの」
「――けっ…!?」
こいつは一体何を言ってるんだ。
ドン引きしながらハルヤンを見ると、なぜか感心した顔で見られた。
「…なるほどね。いやますますありちゃんが不憫に思えてきたわ」
「お、俺が悪いのかよ」
「いや、悪くないよ。恋愛なんて惚れた方が可哀そうに見えるだけで、逆から見たらただの迷惑だからね」
何でもないようにさらっと言ってのけたハルヤンの言葉に驚く。
コイツって適当な奴かと思いきや、たまにめちゃくちゃ大人っぽいこと言うよな。
伊達にメンヘラ女に追いかけられてない。
「あ、そうだ。それより俺マッスーに謝らないといけないんだったわ」
「え?」
「それで声掛けたんだけど、忘れてた」
テヘッとハルヤンは悪気無くそう言ってから、俺に一冊のファッション雑誌を差し出す。
友人詐欺しても謝らないハルヤンが何事かと思えば、表紙が水瀬だ。
まあそれは置いといて、中をぱらりと捲られる。
そこに出てきた写真に俺は目を見張った。
「いやー街角スナップって約束だったのにさ、特集ページ組まれちゃったんだよね」
「――おいっ、なんだこれ」
余裕の見開きで俺が掲載されている。
そういや先々月だったか、ハルヤンに協力してやって撮影したな。
話では小さく写真載せるだけだからって言ってたのに、堂々の数ページを飾ってんじゃねーか。
もしかして今日やたら周りがざわついてたのはこれのせいか。
「マッスーの希望によっては訴えられるけどどうする?…俺もこういう契約違反はちょっと腹立つんだよね」
そう言ったハルヤンの表情が珍しくイラついているように見えたが、そんなことよりもっと大事なことがあるだろ。
人として許せないことがあるだろ。
「ふざけんなっ。どう見てもこれ実物の方がイケメンだろ」
「あ、そこ?」
ハルヤンの呑気な声が廊下に響いた。
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