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18歳以上ですか?
181にしおりをはさみました!
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181
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後半戦が始まったが、まさかの相手チームの猛追が始まる。
さすが相手も最後の大会、このまま終わるつもりはないらしい。
手に汗握る展開が続き、俺達も応援に熱が入る。
「ここはぜひとも盗塁成功させたいところですね」
水瀬もいつの間にかにわか監督に就任している。
休日ということもあって両校それなりに応援も来ていて、サポーター同士も声援で負けられないという謎の敵対意識まで生まれている。
最初こそあの出来事でモヤモヤしてたけど、俺もいつの間にか嫌な事を忘れて声を張り上げて試合の応援に参加していた。
「初戦突破、オメデト―!」
試合終了後、ハルヤンの部屋に集まってお菓子を広げながら今日の結果を振り返る。
俺達の超応援の末、有坂達我が校の野球部はなんとか初戦を突破して、二回戦へ進出することが出来た。
必死に応援していたこともあってみんなテンションも上がっていて、ハルヤンと水瀬と三人で盛り上がる。
「いやーかなりチーム仕上がってたね。前に見た時とは全然違う」
「まぁまだまだ勢いで押してる感もあったけどな」
「僕ならあそこはスクイズの選択を選びますが…結果的に面白いところへ転がったので良かったですね」
ちなみに誰も野球経験はないが、別にそんなのは関係ない。
こういうのはノリとテンションが大事だ。
そんなわけで勢いのままハルヤンの家にあった野球ゲームを取り出して、みんなでゲーム大会へと発展する。
試合後ということもあって白熱したが、ふと本来の目的を思い出す。
「あれ、そーいや結局勉強してないけどいいのかよ」
「んー別に?ありちゃんが勝ってくれたおかげでその必要はなくなったかな」
どういう意味だ。
またなんか企んでたのかと目を細めたが、不意にポンと頭を叩かれた。
「ま、俺が言えることなんてぶっちゃけもうないしね。それでも一緒にゲームくらいは出来るからさ」
「は?」
聞き返したが、ハルヤンは特に何を言うでもなく再び視線をテレビへと向ける。
一瞬ポカンとしたが、ふと気付く。
――あれ、ひょっとして慰めようとしてくれたのか?
トクンと心臓が優しい音を立てる。
ポカポカと胸が暖かくなったが、いやふざけんなちょっと待て。
コイツは詐欺師であって人の心を弄ぶのは詐欺の常套手段だ。
油断したら付け込まれるしトクンじゃねーんだよ。
そんなわけで俺達の関係は相変わらず加害者と被害者のままだが、信用という言葉に打ちのめされてる俺に取って、今はそれくらいの方が有難かった。
途中で水瀬が仕事で帰り、ハルヤンも俺にゲームでボコボコにされて完全に萎えた頃、有坂が帰ってきた。
「結城の面倒を見てくれたのか。すまなかったな」
「違う。俺が面倒見てやったんだ」
「ハイハイ、何でもいいから早く回収してってよ」
人を粗大ゴミみたいな扱いすんな。
追い出されるように有坂と一緒にハルヤンの部屋を出たら、なんだか急に現実に引き戻されたような気持ちになる。
いつもは有坂の顔を見たらテンション爆上がりして逆に夢の世界に突入するくらいなのに、なんだか今はちょっと怖い。
「今日は来てくれて有難う。結城のおかげで勝つことが出来た」
「う、うん。頑張って応援した」
「ああ。次の試合もまた恥ぬ戦いをする」
有坂の言葉に嬉しくなったが、それきり会話が止まってしまう。
伝えたい言葉がたくさんあったはずなのに、なぜだか言葉が出てこない。
ハルヤンと一緒にいた時は、もっと有坂に伝えたい言葉が溢れて止まらなかった。
スタンドから見下ろす有坂はめちゃくちゃカッコ良くて心臓がドキドキして、あそこにいる奴は俺の恋人なんだって球場に来ている奴ら全員に言って回りたい気持ちだった。
有坂が帰ってきたらたくさんその気持ちを伝えようと思ってたのに、喉が詰まったみたいに言葉が出てこない。
――もしも。
もしも俺が今、何か間違ったことを言ってしまったら。
もし有坂を怒らせるような事を言ってしまったら。
俺はよく有坂に説教されてたから、どこで怒らせるのか分からない。
今もし怒らせたら、有坂は悩んでいることをやめてすぐに向こうの大学に行く事を選んでしまう。
そればかりが頭によぎって、今まで自分がどう発言してたのか分からなくなる。
「…結城?」
「――えっ、あ、えっと。い、家に電話する」
「は?俺が送っていくが」
「あ、有坂試合で疲れてるだろ。別に大丈夫だから――」
「結城」
不意に有坂の声が低くなる。
ビクリとしたが、手を引かれてそのまま有坂の部屋へ連れていかれた。
部屋へ入ってパタンと扉を閉めると、玄関の扉に押し付けられる。
無表情だけど鋭い目つきが、突き刺すように俺を見下ろしている。
「あ…お、俺何もしてない。何も悪い事してないけど…」
慌ててそう言ったら、有坂の眉間に皺が寄る。
明らかに怒ったような表情にバクリと心臓が嫌な音を立てた。
「なぜそんな発想になる。お前を責めてなどいない」
「お、怒ろうとしたんじゃないのか」
「…今会ったばかりだろう。怒られるようなことをしたのか」
「し、してないけど――」
でも分からない。
有坂の説教スイッチが分かるくらいなら、俺だって今まで苦労してない。
身体を強張らせたまま何も言えなくなっていたら、有坂が小さく息を吐き出す。
今度は呆れられてしまったのか。
「いやただ…お前が帰ると言ったから、もう少し側にいたいと思っただけなのだが」
そう言って有坂はどこか照れたように俺から視線を逸らした。
一瞬何を言われたのか分からなかったが、一拍遅れてカッと胸が焼けるように熱くなる。
耳まで急激に熱が昇っていくのを感じた。
「…っえ、お、怒ってたんじゃないのか」
「そんな顔に見えたか?俺はお前に会ってからずっと微笑んでいるが」
絶対嘘だろ。
とは思ったけど、でもそういえば有坂って元々こういう顔だった。
無表情と若干怒ってる顔がデフォだけど、それでも有坂マスターの俺にはいつも優しく微笑んでいるように見えたはずだ。
思わず息を飲んでその顔を見つめてしまったが――やばい。
有坂の気持ちが本気で分からなくなってしまった。
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