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渡辺くんの彷徨。にしおりをはさみました!
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渡辺くんの彷徨。
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***
「艮くんなら公園で見かけたよ。」
クラスの子からそう聞いて学校を飛び出したのはまだ昼休みにもなってない時間帯で、すれ違う皆が「忘れ物?」なんて呑気に声をかけてくるのを背中で聞いていた。
艮くんを見つけたのは昼の12時を少し回った頃。公園のベンチで見知らぬ男と顔を突き合わせているところで。
ああ本当に友達といたんだ、とか。
何でそんな至近距離を許してるの、とか。
どうしてそんな色っぽい顔してるんだろう、とか。
頭ん中で反芻していたときには艮くんを押し倒していた。めちゃくちゃにしたいのと優しくしたいのがごちゃ混ぜになって、我に返ったのは艮くんに突き飛ばされてから。
『俺らは本能に従ってるだけだ、そうゆう関係じゃねえ!』
艮くんの酷く傷ついた顔に、
頭を鈍器で殴られた気がした。
「渡辺くんが昼休みいるなんて珍しーい」
「一緒にお昼たべよっ!」
「うん」
廊下で女子たちと話しながら通りかかった教室の隅でひとり昼食をとる艮くんの姿を捉える。あの日を皮切りに昼休みの密会は終わりを告げた。もう屋上を訪ねても誰もいない。噛みつきたいほど甘く誘う首筋も、抱き寄せる温かい身体ももうあそこにはない。
「ねえ、渡辺くんって好きな子いるの?」
「いないよ」
「じゃあ、どんな子がタイプ?」
「さあ…考えたことないかな」
「えー、気になる人は?」
「それは…」
いた。
最初に目についたのはその髪がド派手な赤色だったから。毎日ヤンキーたちと子供の喧嘩ばかりして、ただの阿保だと思ってた。本当の殺気立つ喧嘩を知らないただの子供だと。でも、そのしなやかな動きと時折見せる鋭い殺気は印象的で。気づけば目で追っていた。それからは視界に入れるたび全身が歓喜しているのに気付いて。だから彼が鬼だと解るまで差程時間はかからなかった。
目に止めたのは本能かもしれない。
気になったのは本能かもしれない。
鬼なら誰でも良かったのかもしれない。
君が鬼で僕が退治屋だから。
そんなの初めから解っていたこと。
解っていて僕はあの日君に声をかけたんだ。
「…渡辺くん?」
それなのにこんな気持ちになるのは、こんな酷く悲しい気持ちになるのはナシだ。君を傷つけるのが使命なのに君を傷つけたことがこんなに悲しいなんて。可笑しい。でも笑えない。
「考え事?」
「ううん。何でもないよ」
「ねえ、今フリーなら私と付き合おうよ」
「あ、ずるい!」
「早いもの勝ちよ」
「…それってスリリング?」
「え…?」
「この渇きを潤してくれる?」
本能だって何だってこの数週間満たされていたのは本当だった。艮くんといて奥底の渇きが潤った。離したくなくて離れたくなくてただそれだけで。
艮くんが欲しいんだよ。
誰にも渡したくないんだ。
「ごめんね」
きっと僕は君を幸せに出来ない。
それでも諦めきれないのが悲しい。
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