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艮くんの驚嘆。にしおりをはさみました!
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艮くんの驚嘆。
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***
「玄…運命て信じるか?」
「…口説いてるんですか?」
「違うッ」
周りに人が居るのも忘れ大声を出すと玄が「冗談です」と静かに返した。ここは商店街の一角にあるファーストフード店。店内は学校帰りの学生たちで溢れガヤガヤと忙しない。まあ自分たちもその類に漏れずなのだが。
「つか意外。こうゆう店を選ぶとか」
「聞かれたくなさそうだったので…」
「逆じゃねえの?」
「騒がしいほうが適してます。…周りも俺らを気にしませんし」
玄の視線が店内に向く。確かにあちらもこちらも自分たちの話に夢中で周りなどお構いなしだ。…なるほど。
「で…どうしました?」
「ん?」
「運命の話です」
「あー…。いやちょっと俺も気になって調べたんだけどさ、お前らの祖先はその…『つがい』だったんだろ?」
玄は驚いたとゆう様に目を軽く見開いた。
「俺と覚が、ですか?」
「違うのか?」
「否、そうですけど…調べたんですか?」
「お、おう」
「…艮さんが?」
「そうだよ!」
玄が今度こそ隠しもせず驚いた顔でこっちを見る。あれこれ詮索される前に話を続けた。
「祖先がつがいだったのは解る。けどお前らが双子てのはどうゆう了見だ?偶然か?それとも…そうゆう『運命』てやつか?」
自分でも何を言ってるのかよく解らない。「運命」なんて口にするのもクサすぎて鳥肌もんだ。しかし玄は至極真面目に聞いている。
「運命かどうかは解りません。そうゆう物が存在するかも含めて。…でも俺らの場合は違うと思います。確率の問題です」
今度は俺が理解できないといった顔になった。確率そのものが解らないのではない。と思う。でも玄の言葉の意味は解らない。
「前鬼と後鬼の子供は前鬼と後鬼の子孫です。」
「お…おう」
「その子供と子供の子供も前鬼と後鬼の子孫」
「う…うん?」
「その子供と子供の…、」
「ま、待て待て待て」
「解りにくいですか?」
「ち、違う」
決して難しい話じゃない。難しい話じゃないのだが。
「子供と…子供?」
「ええ」
「血が繋がってる…てことか?」
「そうですね」
「駄目だろ!」
「まあ…駄目とゆう概念がお互いにあればそうですね。しかしこれなら確実に血を残せる。近親相姦ですから勿論リスクは高い。だから確率の問題なんです。俺らが双子だったのは偶然でしょうけれど」
玄が涼しい顔して淡々と続ける。
「だから前鬼と後鬼が近しい存在として生まれるのは偶然ではありません」
「どっちが前鬼か後鬼かつーのは…、」
「俺らの場合は印が出ます。前鬼は赤い痣、後鬼には青い痣が脚の付け根に」
だからきちんと血を残すことが出来たかどうかは容易く確認出来るのだとゆう。もしかすると知らないだけで自分の身体にもそうゆう「印」があるのかもしれない。
ならば善し悪しは別にして掛け合わせの問題であっても、こうやって前鬼と後鬼の血を受け継ぐ者が生まれているとゆうのは、それなりに「運命」なのではなかろうか。つがいとして生まれた「運命」とゆうのがDNAに刻まれているとして、この間のヤツが言っていた「伴侶」とゆうのも…。
「…ん?」
「どうしました?」
「とゆう事はお前らも勿論…」
「痣がありますよ」
「じゃあ子供も…」
「きっと作らされますね。」
「他に姉妹がいるのか?」
「いいえ。二人兄弟ですが」
「いや…でもそうなると…」
「……艮さん」
玄が真面目な表情でこっちを見た。
「この事はもう少し時間が経ってから話すつもりでした。そのほうが貴方の混乱を軽減できると思ったから」
いや既に混乱している。何となく、本当に何となくだが玄がいまから話す事が頭の隅の隅の隅っこのほうで薄っすらと予想できる。
「俺ら鬼と人間に違いは殆どありません。身体能力に僅かな差はあれど微々たるもの。実際、艮さんもご自身の血には気づかなかったでしょう?…でもひとつだけ大きな違いがある」
玄が深く息を吐いた。
「俺らは産めるんですよ、子供を」
思考が、止まった。
「環境で雌雄が変化する生物がいるのはご存知ですか?魚や蛙などにいるんですが…鬼も同じです。環境によって生まれてきた性別とは違う生殖器を形成する事がある。つまり…俺らでも子供を残せるんですよ。あくまで可能性の話ですけれど」
こんな雑踏のなかで聞く話じゃなかった。なかったけど今はこの煩さが有り難い。自分ひとりなら頭の中身を全部ぶちまけて空っぽにするところだった。いやもうかなりとっ散らかって空っぽに近いけど。
「正直この事は混血のなかでも迷信扱いされています。今は知らない者も多い。普通に生活をしていれば気づかない事ですしね。…でも純血を守ってきた者たちならば誰もが知っている」
固まったままの俺を見て玄の声が少し優しくなる。
「…また嫌になりましたか?鬼とゆう存在が」
「…いや」
「…」
「単に驚いただけつーか…嫌だとか逃げ出したいとかは……ない。まあ聞いたのは俺だし腹は括ってるつもりだったし。…向き合う、て決めたし」
玄が慈しむような何処か寂しげな顔で微笑んで俺の頬を撫でた。
「全てを受け入れる必要はありません。ただそうゆう事実がある事も知っていて欲しかったんです。…きっと貴方も無関係ではないから」
「…ん、…ありがとな」
「いえ。…帰りますか?」
玄が俺のコートとカバンを手渡す。黙って受け取りトレイ片手に席を立つ。
「艮さん」
玄が背中越しに呼び止めた。
「何故貴方が急にこんな事を聞いてきたのか追求はしません」
「……」
「俺は鬼も人も嫌いです。ましてや退治屋など信用するにも値しない」
「…玄、」
「…ですが」
「あの渡辺の子孫だけは…渡辺綸だけは、少し信じても良いのではないでしょうか。置かれてる立場など関係ない…貴方が信じたい者を信ずるべきです」
玄は決して俺を見ようとしなかった。けれど言いたい事は解りすぎるほど解ったから敢えて俺も玄の表情は伺わなかった。とゆうか色々バレてんなこりゃ。つうか別に俺は。
「信用してるから玄に相談したんだし」
「……、」
「で、やっぱ楽になった」
「……」
「有難う」
店を出てケータイをカバンから引っ張り出した。普段使わない連絡帳を開いてみる。善は急げ、か。
通話ボタンを押す。
なんか緊張して手に汗掻いてた。
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