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渡辺くんの密談。
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***
「おかえり」
艮くんがあの後鬼のところへ行ってしまい早々に帰宅した放課後。部屋で待っていたのはブロンド髪の青眼だった。
「…何でいるの?」
「ちょっと耳に入れときたい事があっておばさんに入れて貰った」
「よく許したね」
「まあ渋ってたよ。謀反人とまでは言わずとも問題児ではあるから」
あの一件以来、僕と友人はあからさまに腫れ物扱いをされている。規律を破りあの源氏に楯突いた無法者として御家内外から奇異の目が絶えない。正直なところ僕はそれでも良かった。自分で蒔いた種だ。こうなる事くらい予想はしていた。けれど巻き込まれただけに過ぎないこの友人はどうだろう。恨まれても仕方がないと思うが今のところその気配はない。大体にして、
「あの人も息子を棚に置いてよく渋れる」
解ってはいたけれど。
まあまあ、と友人は苦笑いして僕を宥めた。
「あのさ…前にオークションの話をしたろ?」
そんな話もあったっけ。自分で調べさせたクセにもう記憶が遠い。勝手なものだ。
「混血が売り出されてたの覚えてるか?」
「何となく」
「その出品者が気になってあれからも調査を続けてたんだ。だって同じ退治屋なら売る必要がないだろ?自分の手柄に出来るんだから」
確かに。前提として色々とおかしい部分がそのオークションとやらにはある。
「混血といえども相手は鬼。普通の人間が狩れるとは思えない」
「程度によるんじゃない?女子供とか」
もしくは金の為に退治屋が出品してる。
…と、そこまで考えてその可能性は限りなくゼロに近い気がした。この生業は国家暗黙なのだ。過去の言葉を借りるなら未だ帝の命により退治屋は存続している。つまり暮らしを保証されているようなもので本家だろうが分家だろうが潤っているのが実態だ。こうゆうの、世間にバレたら結構ヤバいと思うんだけどね。
「こっからは噂なんだけど、そのオークションには鬼の溜まり場をリークする輩がいるらしい。そしてそれを聞いた主催者側が何処からか鬼を用意してくる」
「じゃあ主催者が退治屋」
「だとしたら目的は?」
「…」
「もし金なら何らかの理由で金に困ってる奴って事になる。たとえば…、」
「…たとえば?」
「破門、とか」
僕の眉根が寄ったのを見て友人は声量を落とした。まるで誰かが盗み聞きしているのを懸念するかのように。小さく、呟くように言葉を続けた。
「これまで欠品を出した事がないのを見てもそれなりに腕が立つ奴だ」
友人と目が合った。二人の思い浮かべた人物が同じである事はその目で判る。だからこそ友人も此処へ来たのだ。
「憶測で物を言うのは愚かだと俺も思う。でも調べる価値はある」
「…本家が首を突っ込んだら問題になると言ったのはそっちだよ」
ただでさえ問題を起こしたばかりだ。何かあれば今度こそお咎め無しでは済まされない。だってもしも本当に僕らの想像した人物ならば。
「…昔は人造人間だと思ってた」
「………は?」
「外面とは裏腹で常に無気力無関心。他人に毛ほども興味はなく自分の事も投げやりで血もなければ涙もない。そんなの、同じ人間とは思えないじゃん?」
「僕のことを言ってるのなら殴るよ?」
「……」
「殴るね」
「ま、待った!タンマタンマ!」
振り下ろそうとした拳を両手で受け止めた友人が慌てて弁解する。
「嬉しかったんだよ」
「は?」
「あんな風に必死になるお前なんて初めて見たから。嬉しかったんだ……なんか…解んないけど」
「……」
「俺はこの前のこと後悔してない。お前がどう思ってるかは知らないけど、俺だって自分で考えて自分で決めた。それなりに覚悟はしてる。…今度も」
友人の青く透き通った眼が僕を見据える。
「お前が変わったなら俺らも変わらなきゃ」
「…」
「リークしているのはあっちの世界に精通してる奴だ。警告していたほうが良い。…大切なら」
握られてた拳をゆっくりと降ろした。ため息を吐きベッドの上に腰掛ける。
「なに。怒った?」
「面倒くさい。本当に面倒くさいよこの家」
「まあ確かに」
「金治が居なかったら今頃一族ぶちのめしてたかも」
「お前が言うと洒落になんない…」
「恨まれても仕方ないと思ってた」
「…?誰が?」
「僕が。お前に」
豆鉄砲を食らった様にポカンとしていた友人が暫くして顔面をクシャリと崩した。
「…なワケ無いじゃん。お前恨んだら倍にして返されそう」
例えいま目の前にいる友人の全てが嘘だとしてもこうしてその笑顔に安堵出来るのならそれはもう真実だ。拠り所である事に変わりはない。誰が味方か敵か判らないこんな世界でも。
「出品者がもし…、」
ピリリと手元の携帯が鳴った。ディスプレーには口にはすれど見慣れない字面が表示されてる。
「…もしもし」
『あ、…えっと……俺、だけど…』
「艮くん?」
『…そう』
「どうしたの?電話…初めてだよね?何かあったの?」
『いやその…きちんと話してなかったから』
「話?」
何かに勘付いたのか会話を中断された友人が聞き耳を立てるよう近づいた。
『俺…お前に黙ってたけど他の奴らに会ったんだ』
「……」
『これから会う約束もしてる』
艮くんが指す「奴ら」が何者かなんて言わなくても解ってる。もう既に次の約束を取り付けていたなんて思ってるよりずっと展開が早い。
「…止めてって言えば止めてくれるの?」
『そうしようと思ったけど…此処まで踏み込んだらもう無視すべきじゃねえ気がして。…知らない方が今は怖ェ』
彼の口から初めて聞くその単語が耳の中に残って「守るよ」そう次いで出そうとした言葉が声にならなかった。
『お前には言っておこうと思って』
「…見られてる」
『それは何となく気づいてた』
「引き金を引いたら止まらない」
『解ってる…だから電話した』
艮くんの息を飲む音が鮮明に聞こえた。
『出かけてる間、妹たちのこと頼む』
「……」
『じゃ』
「待って」
『……』
「君を止められないなら、君にも僕は止められないよね?」
受話器の向こうで静かに頷く姿が見える。
『…じゃ』
数字にすれば虚しい通話記録が映し出され、暗い画面の向こうに酷い顔した自分がいる。
「なあ…今のって…」
「…」
「家族…ヤバいのか?」
「先手は打ってる。彼女が捨ててなければね」
「捨てる?」
「護符のついたカードを花束に仕込んだ」
「…お前…普段どうゆう生活してるの?」
財布と携帯を鞄に入れ上着を羽織る。制服まで着替えてる暇はない。
「どこ行くんだよ」
「安部のところ」
「今から!?お前にも監視が…、」
「それこそ今更だよ。オークションの件は任せる。進展あったら教えて」
「あ、ちょっと!」
君を止められないのなら君も僕は止められない。引き金を引く前に君を探し出す。いや、もし引いたとしても探すよ。だって…
「…引き金を引かせたのは僕だ」
間もなく日の落ちる時刻、空を染める紫は闇をはらんでいた。
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