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艮くんの救出。*にしおりをはさみました!
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艮くんの救出。*
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***
ぬるま湯に浸かっている。身体がふわふわと浮かんでいるのが気持ちいい。何も考えなくていい。身を任せればいい、て、脳みそに語りかけてくる。
「…あっ…っ、はっ、ぁ…、」
「あ。乳首がプックリしてきタ」
ケラケラと笑う声が聞こえる。寄り添う姿はボンヤリとしているのに蒸せ返るような濃い匂いが全てを奪って上手く息ができない。
「…気持ち良イ?」
「ふっ…、ンッ、」
「フフ。キモチイー顔…。ボクの匂イ…龍美からいーっぱいすル」
笑い声が俺の名を呼ぶ。返事をしなきゃいけないのに声が出ない。いつもなら直ぐに出るのに。…いつも?いつも何て呼ばれてたっけ。
「…あー、いいなア。頭ドロドロの龍美の顔。食べタイ…食べたいかモ」
呼ばなくては、名前を。
「…わ……、」
「駄目だヨ、龍美。ボクもそうだケド、違ウ。龍美のソレは違う人の名前デショ?…ボクの名前を呼ばなキャ」
誰の名前を?俺はそれ以外を知らない。それ以外を呼んだ事がない。動かない唇をガリッと乱暴に噛まれた。
「言い付けを守れナイのは悪いコだヨ、龍美」
弄られてプックリとなった乳首を強く摘まれ先端に爪が食い込む。身体がビクンと大袈裟なほど撥ねて目の前の声に笑われた。呼ばなくては。呼ばなくてはいけないのだけど。浅く喘いで音にならない声は全て深い口付けに奪われる。
「…ぅ、ん……っ、」
「…あー、モウ食べよウかナ」
ぐちゃぐちゃだ。思考も身体も唇も。
「龍美」
「…気安く呼ぶな」
何も聞こえなかった。
聞きたかったその声以外は。
「…うおっ、何だァ!?この匂い…」
「気化した神便鬼毒酒か…、艮さん!」
知ってる声がする。のに身体が上手く動かせない。けど俺はこの名を呼べる。目の前に現れたこの男の名を。初めから、この名前しか知らない。
「…わ…、た……なべ、」
一生懸命伸ばそうとする手を渡辺が掴んで引き寄せた。今まで俺の身体を支えていた奴が空っぽになった腕を眺めて「あーあ」と呟く。
「…見つかっちゃっタ」
そう可笑しそうに呟き奴が腕を振り上げた。俺を庇いながら渡辺が瞬時にそれを避ける。ガツンと鈍い音がして床に壊れた渡辺の腕時計が落ちた。今までのゆったりとした話し方がまるで嘘みたいな、目を疑うほど素早い攻撃だった。
「新しいアジトなのニ…なんでバレちゃっタのかナ」
落ちた腕時計には目もくれず渡辺は奴をじっと見据えていた。抱き寄せられてる肩に渡辺の指が食い込んで痛い。
「誰から聞いたノ?」
「…」
「ねェ、綸」
綸、と確かに渡辺の名を呼んで奴がクスクス笑う。部屋に充満する毒酒に警戒して入り口までしか入れないチビと玄も驚いた様子で「知り合いかァ!?」と叫んでいる。けれど当の渡辺は沈黙を守ったままだ。
「…ねェ、てバ」
「……、るの?」
「うン?」
「誰のものに…手を出してるの?」
相手の質問は一切無視し、渡辺はそれだけを繰り返した。
「龍美のこト?」
「…呼ぶな」
「なんデ?おニイちゃんにも貸してヨ」
「………は?」
そう声を発したのはチビだった。玄も驚いて声が出ないようだ。霞みがかった視界に渡辺の険しい表情が映る。そんな顔を見るのは初めてだとボンヤリ思った。
「…何で」
「偶ゼン?ンー、ホントに偶然なんダヨ?たまたま龍美に出会ったノ」
膝を抱え床に座る奴が始終ニヤニヤと笑いながらジットリと舐るように俺らを見回す。
「微か二…綸の匂いがしタ。ボクが綸の匂いヲ間違えル筈がない…そうでショ…?」
奴が肩から斜めに提げている布袋を抱えた。覗く頭蓋骨ごと大事そうに抱え頬を寄せる。まるで宝物を扱うかのように愛しそうに。
「だっテ……お前は小町ヲ殺しタ男ダ」
片目しかない奴の眼光が鈍く揺らめいた。捉えどころない男の初めて見せる解りやすい感情。紛いもない…憎悪。
「お前の匂いをボクが逃す筈がなイ」
ビリッと鈍くなった感覚にもその憎悪が放つ殺気を肌で感じれた。今にも噛みつきそうな鋭い空気を纏って奴がこちらを窺っている。頭の中でさっきの奴の素早さがフラッシュバックした。逃げれるのか。俺を抱える渡辺の表情を窺ったが相手を見つめているだけで何も読み取れない。
「退治屋ァ!とりあえず外に出ろ!」
「この部屋では艮さんも身動きが取れません!とにかく外へ!」
この部屋にあの毒酒が撒かれているのをとりあえず二人は理解しているようだ。渡辺と奴の実力は計れない。しかし俺が動けない以上、渡辺が不利なのは変わらない。けれど渡辺は動かなかった。
「退治屋ァ…!」
「呼んでるヨ?行かないノ?……それとも…ボクと殺り合いタイ?」
「…殺り合いたいのはアンタでしょう」
「フフ…そうだネ、そうダ」
笑いながら奴は頭蓋骨をギュッと抱きしめた。そうして小さな声で「でも殺すのハ…ミヤ」と付け加えた。
「今はミヤが居なイ…見逃してあげルヨ。それに…ココには龍美が居ル。一緒に殺しちゃウのハ、可哀想だかラネ」
渡辺の眉根がピクリと動いた。
「やっぱリ…ボクにも"渡辺の血"は流れてルんだネェ。龍美は特別だっタ。…美味しかっタヨ」
奴が口端に付いた血をペロリと舐めた。ズキリと唇が痛む。渡辺が俺を抱えたまま奴の背後にあったコンクリートの壁を蹴りつける。寸でで避けた奴が背後の削れたコンクリート壁を見て薄く笑う。
「案ガイ気が短イんだネ、綸ッテ」
「…」
「また遊ぼウネ、龍美」
渡辺の攻撃をヒラリと避けて奴が窓から逃げてゆく。それを追いかける事もせず渡辺は黙ってその姿を見ていた。何とも言えないその表情が俺に言葉を発する事を許さなかった。
「…最悪」
だからそれが一体誰に向けた言葉だったのか俺には知る由も無い。
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