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渡辺くんの憤懣。*
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***
誰とも分からない奴からの伝言を受けて来たのは港の近くにある質素なプレハブ小屋。飲食店を開くには不向きな立地に思えた。つまり不自然で。
「中が見えねェなァ」
「でも灯りが漏れてる…誰かいます」
「ココは二手に分かれるかァ。まとまって行動するのは得策じゃ……て、コラァ!話聞けや!」
ノブを触ると戸がキィと微かに音を立てて開いた。鼻腔に覚えのある匂いがつく。古い記憶のなかにある思い出すのもやっとなほどの匂い。
「……神便鬼毒酒…」
「え?」
身体が勝手に動いていた。こんなもの普通の生活では嗅ぐことなど無い。そもそも出回ってはいないのだから。特別なルートでしか入手出来ない。それを知っていて尚且つ手に入れられるのは……。
「……」
目の前に広がる光景なのに夢ではないかと思った。いや、夢であって欲しいと思ったのかもしれない。だってこんなの…在り得る筈がない。
グッタリとした艮くんの身体に覆いかぶさっているのは……見知った人間。
銀糸を垂らして艮くんの唇から男が離れる。男が愛おしそうに「龍美。」と呼んだ。
そこからの記憶はあまり無い。
「どうゆう事だ、退治屋ァ」
「こればかりは…きちんと説明して貰います」
外に出た途端、小鬼ちゃんと小角玄に詰め寄られ仕方なく口を開いた。と言ったって、自分にも解ることは一つも無い。有るとすれば…、
「男の名は渡辺練…数年前に渡辺家を破門された元退治屋」
幾ぶりにその名前を音にしただろう。ここ数年、発することすら禁じられてきた。
「僕の兄だ」
二人の息を飲む音が聞こえた気がした。きっと安部の使い魔である二人ですらその真実をきちんとは知らないだろう。そりゃそうだ。ずっとひた隠しにして来たのだから。
「それが…どうして艮さんを連れ出した筈の茨木童子と……、」
「知らない。…本人は偶然だって言ってたけど」
「とりあえず艮さんの手当てを…、」
艮くんを介抱しようと差し出した小角玄の手を払った。
「…、」
「…外傷はない」
「しかし毒酒を抜かなければ…、」
「神便鬼毒酒は自然と身体から抜けるのを待つしかない。…もともとウチの家系が造らせている毒酒だ。知識はある」
此処まで手伝わしておいて酷いことをしているとゆう自覚はある。けれど頭で解っていても感情は別物だ。
「退治屋ァ…コイツも好きでヤツに…、」
ガン、とプレハブ小屋の薄い壁を殴る。子供じみてると解ってる。解ってるのに。
「…ごめん。今日はもう解散したい」
とりあえず艮くんはいま腕の中にいる。僕の様子を見て小鬼ちゃんが溜め息を吐く。
「殺すなよ。…流石にいまの状態はフェアじゃねェ」
「…大丈夫ですか?」
「だから外傷はない、て」
「いえ……貴方が」
「…」
返事はしなかった。渋々帰る二人を背にケータイを取り出して一言、二言、相手に告げると15分もしないうちにタクシーが来た。抱えてた艮くんを後部座席に寝かせ僕も後ろに乗る。着いた場所ではフロントマンと支配人らしき人物が待っていて手続きも無しに部屋に通された。豪華ではないけれど気配りの効いた綺麗な部屋だ。
「…んっ…、」
ベットに寝かされた艮くんが鼻に掛かる声を出して身じろいだ。呼吸が熱い。神便鬼毒酒の毒が身体に回っているのだろう。あの毒は鬼とって時には快楽にもなる危険な毒だ。特に特殊な人間の匂いと交われば。
「…、」
自然と舌打ちが出て寝かした艮くんの身体を服も脱がさずバスタブに入れた。そのまま蛇口を捻り冷たいシャワーを艮くんにぶっ掛ける。
「…っ、は…、」
無理やり体温を下げられ血が上って虚ろだった艮くんの目が徐々に戻っていく。それでも身体は自由に動かせないのだろう。されるがまま冷たいシャワーをかけ続けられている。
「…も、…いい…、」
「…もう良い、て何が。そんなに身体中から他の男の匂いをさせといて何がもう良いの?」
自分でも驚くほど低い声だった。
理不尽だ。艮くんにとって。好きで知らない男に触らせた訳でも無いだろうに。けれど好きで触らせた訳で無いにしても、首筋に残ってる鬱血の痕が、シャツを押し上げてる尖った胸の先端が、噛まれて傷ついた唇が。身体中に他の男の痕跡が残ってて、本当に、目眩がするほど、
苛々する。
「相対する血なら誰にでも身体を許すわけ?…本当、本能だけの獣だね」
「…ちが……、」
「違わない。違うヤツは胸を撫でられただけで厭らしく喘がない」
「…んっ……ふっ、ぅ、」
我慢をしているが毒の効果も相俟って身体は反応しまくっている。覚えのない仕込まれた反応に血が昇った。目の前が赤い。クラクラする。たぶん怒りで。尖りを加減せず捻りあげた。艮くんの身体がビクビクと震える。既にずぶ濡れのスラックスに水以外の染みが広がった。
「………イケるんだね…他の男に教えられたトコで」
服が濡れるのも構わずバスタブの艮くんに覆い被さりイッたばかりのソコをスラックスの上から乱暴に掴んだ。身体は冷えてる筈なのに艮くんの目尻が朱に染まる。悲鳴にも似た喘ぎを自分の舌の上で出させた。艮くんの吐く呼気が熱くてこっちまで頭の中が沸騰する。
「…、他は?何処を触られた?」
「…わ…、かんね…、」
「思い出して。じゃなきゃ帰さない」
嘘じゃない。いまの僕にならそれくらい簡単に出来るだろう。快楽に流されないように適度に痛み与えて正気を保たせる。感度の上がった身体を弄られて、けどイケなくて。毒の快楽が回った身体にはきっと地獄にも似た仕打ち。抵抗とも呼べない力で艮くんが身を捩る。それを逃さないよう押さえつけ目の前に曝された耳朶に噛み付いた。艮くんの鳴き声が風呂場に響く。その反響を途絶えさせたくなくて何度も何度も舐って噛んだ。
「ねえ…アイツにもそんな声を聴かせたの?自分からそうやって強請ったの?」
「…して…、な…っ、ぃ、」
「してない…?あんなに好きにさせてたクセに?ロクに抵抗もしなくてさ。……キスもされてたっけ。ご丁寧に唾液まで飲まされて」
半開きの口に親指を突っ込みダラダラと飲み込めない唾液を零させる。他と交わった体液なんて全部溢れて無くなってしまえと思った。指を伝う艮くんの唾液が水とともに排水溝に流れてゆく。
「…君が知りたいと言ったから手離した。けどね、こんな事まで許してない。他の男に触らせて身体を開いて好き勝手されて…そんな事まで許した覚え、僕にはない。……なのに、なんで…、」
なんで、
なんで、
なんで、
「……アイツが…、」
訳が、解らない。
「…なんつー…顔…して、ん…だよ、」
艮くんが動かなくなった僕を抱き寄せる。自分だって苦しいクセにその腕はムカつくほど優しい。
「…泣くな」
「…泣いてないよ」
「…泣けよ」
どっちなの。艮くんの肩に頭を預けたまま薄く笑ってそう問うたら「泣きたいときには泣いとけ。」と至極真面目なトーンで艮くんがそう答えた。でも僕には泣く理由がない。
「お前に…話したい事がある」
僕もだ。上手く話せる自信はないし出来れば言いたくなかったけれど、隠しておく事は出来なくなった。肩に沈んだままの僕の頬に艮くんが触れ顔を引きあげる。
「…話は後で…絶対するから、」
「?…うん」
「だから…、」
「え?」
「…触っ…て…」
「……。」
「触って……欲し…い、」
聞き返したのは意地悪ではない。ただ純粋にその言葉が艮くんの口から出るとは思ってなくて思わず聞き返してしまった。未だにイケていない艮くんが切なそうに息を吐き僕を見つめる。
「…俺も……お前の匂いで消して欲し……ッん…っ、!」
言い終わる前に語尾を唇で奪った。さっきまでの一方的なものとは違う、でも丁寧とは程遠い行為で、乱暴に互いを貪る。胸が苦しかった。愛しいのか憎いのかすらも区別がつかない。ただ離したくなくて離れたくなくて。もしもこれが毒のせいで求められてるんだとしても構わない。だって、
「…僕のだ」
これは僕のもの。
それまでの激しさが嘘のように優しく丁寧に扱くと艮くんが声も上げず吐精した。
「…渡辺…」
僕の事を呼んでいる。
僕の事を、呼んでいる。
熱の抜けた艮くんが触れるだけのキスをする。
「…来てくれて……有難う…」
嗚呼…狡いな。だって、そんな顔されたら許さない訳にはいかなくなる。許してしまう。甘くなる。
「舌、出して」
「?…痛ッ…!」
「血と混じったの、僕に頂戴」
「……え?」
「艮くんの血と唾液…僕に飲ませて?」
膝立ちさせた艮くんを見上げるようにして口を開いた。きちんと舌を出して艮くんのソレを待つ。意図を汲んだ艮くんが顔を赤くした。有無を言わさぬ空気に抵抗を諦めた艮くんがそっと口を開ける。差し出る赤い舌。噛まれた舌先に血の滲んだ唾液が溜まってる。
「零して」
もうとっくに頭は冷えてるけれど語気を少し強めた。逃さないように。これは命令だって気付かせるために。血混じりの唾液がツーっと滴る。
「目…逸らしちゃ駄目だよ」
見つめ合ったまま僕の舌に唾液を零す艮くん。目を逸らしたいほど恥ずかしいのに外せない艮くんの羞恥と葛藤した顔。その表情が毒で意識の混濁した反応よりずっとずっと淫靡で。こっちのがやっぱり……良い。与えられた甘い甘い唾液を啜る。
「ご馳走様」
「ん…」
「次は僕のを飲んでね。いつかきっと、とびっきり濃いのをあげるから」
僕のものだって証をね。
キョトンとしてる艮くんの耳に口を寄せた。僕の囁いた言葉に固まってしまった艮くんを見て薄く笑う。ごめんね、でもたぶん、手加減はしない。出来やしない。
「覚悟してね」
それが艮くんに届いたのかは定かじゃなかったけど、思ったより気持ちは晴れていた。
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