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お湯を沸かして、紅茶をいれる。やり方を教わってからは、俺の役目になった。缶の茶葉なんて、見るのは人生初めてだ。うちじゃ安いティーバッグしか飲んだことがない。勉強はしてるけど、真四角の缶に書かれている英語は、ちんぷんかんぷん。
普段、来客もないくせに、ヒヤさんは菓子作りも得意だ。今日はブラウニーだった。洋間でいただく。和菓子は和室だし、いつぞやは月餅とジャスミン茶を、中華風の朱色と黒の部屋で堪能した。
「ヒヤさん、甘いの好きなの?」
「……特に。……どっちかっていうと、嫌い」
「じゃあなんで作ったんだよ」
「…………………作りたかったから?」
疑問系で返されても。変な人、と言ったら、そうだね、と流された。
「………美味しい」
「……昔パティシエだったんだ」
「えっ、マジ? 道理で!」
「嘘だよ。……君、人の経歴こそこそ漁っておいて、信じないでよ」
「別にこそこそしてねーよ、堂々と調べたよ、だってなんも言ってくんないんだもん。てゆーかマジで店レベルで美味いんだけど。誰かに習ったの?」
「………………この前のケーキと、どっちが好き?」
あ、はぐらかされた。
「これも好き。チョコ系好き……あー、でもこの前のふわっふわも好き。紅茶の。あとくるみとか入ってたやつも好き。ヒヤさん、なんでも作れる?」
「……なんでもじゃないけど。なんか作ってほしいの、ある?」
「んー、じゃなくて。普通にご飯とかも美味いもん作りそうだから」
「それはない。……お菓子作りは過程が一番楽しいからなあ。やるだけであって。…………そもそも一人暮らしで、まともにご飯なんか作らないよ」
「お菓子は作るくせに?」
「君が食べてくれるからね」
とってつけたような笑顔。それも一瞬で、すぐにもとの無愛想な表情に戻った。綺麗な横顔。俺のことはよく観察しているくせに、なかなか目は合わせてくれない。
「……ポッケに入れてるの、なあに」
ヒヤさんに聞かれて、思い出した。そういえば、無意識に入れっぱなしだった。
「あー、ラムネ」
ビンを出す。中でカラカラと、ビー玉が転がった。
「……出さないの? それ」
「えっ、ほんとに出せんの? これって」
ビンを渡す。どういう育ち方をしてきたんだ、と絶対ヒヤさんは思ったに違いない。この人、わりと感情は駄々漏れなんだよな。
東京には駄菓子屋なんてなかったし、お母さんがいた頃、買い食いやジュースは禁止だった。
簡単にビー玉を取り出してみせたヒヤさんに、俺ははしゃぐ。さすが大人。キラキラのそれを受け取って、光に透かして眺めた。何の意思もない透明さ。そのくせ、複雑な淡い色合いで、なかなか掴めない。ヒヤさんみたいだと、ちょっと思った。
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