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第０章–２ 都会猫のときめきにしおりをはさみました!
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第０章–２ 都会猫のときめき
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「お疲れ様です」
少し甲高い声にはっとして顔を上げる。
事務所に残っているのは、自分と声の主である谷口だけだったらしい。
「谷口さん、お疲れ様です」
「係長。なに熱心に眺めているんです？」
保住は、視線を落としていた書類を谷口に手渡す。
「内示も出たことだし。いいでしょう」
「お、新しい人事ですね。おれ、異動なしか～……残念」
「まだ来たばっかりじゃないですか」
「そうは言っても。この部署は、楽しいけど、結構過酷ですよ」
彼は肩を竦めて、書類を保住に返す。
「高野さん、異動ですね」
「さみしくなりますね」
「本当だ。ここはみんな同志みたいなものです。係長には、よく取りまとめてもらっていますしね」
「取りまとめる、だなんて。一番下っ端の最年少の若造が恐れ多い言葉ですよ」
「そんなことはありません。おれたち、みんな期待していますから」
谷口は、骨ばっている手でカバンを持ち上げる。
一見すると、骸骨のように痩せている男だ。
身長は180センチは超えているだろうか。
長身で骨に薄皮が張っているだけのような男は、小学校の理科室に飾ってある骨の人体模型のようだ。
頭のてっぺんから、紐でつるされているみたいで、見ていて愉快な気持ちになる。
保住は、頬杖を突き苦笑した。
「ありがとうございます」
「とかなんとか言って、お先に失礼します、なんですけどね」
「もう８時半です。どうぞ帰ってください」
「失礼します」
谷口は、手を振って頭を下げると、そのまま事務所を後にした。
この部屋には、四係が入っている。
教育委員会文化課振興係。
保住の城はそこだ。
係長になって一年が経とうとしている。
「早過ぎるだろう」
「甘やかしすぎ」
そんな後ろ指をさされながらの昇進だ。
確かに。
保住の昇進は、市役所始まって以来の快挙。
３０にして係長に上がれるなんて前例のないことだ。
ああだこうだと言われても仕方のない事なのかもしれない。
早すぎる出世は、周囲も戸惑うが、自分も然りだ。
部下は、自分よりも年上。
やりにくいなんて言葉では言い表せないくらい、部下になった職員にも気を使いながらの仕事なのだ。
心労は絶えない。
大きくため息を吐く。
文化財係や、埋蔵文化財係は誰もいない。
照明が付いているのは自分のところだけだ。
こうなってからやっと仕事がはかどる。
日中、がやがやしている間は、部下に気を配り、そして上司の相手もしなければないないのだ。
人より仕事をこなすスピードは速い男だが、さすがにあちらもこちらも気を配って仕事をするということは面倒。
集中して行うという意味では、この時間が一番至福の時になるのだ。
決済をする書類を並べて、ふと高野の席を見る。
数週間後に彼は、異動だ。
そして、ここに新しい職員がやってくる。
新しくやってくる職員の現職は、農業振興係のようだ。
同じ振興係でも内容がまったくかけ離れている。
また一から指導していくのは大変だが、初めて自分より年下の部下ができるようだ。
どんな男が来るのか。
「楽しみだな」
保住は、ふと軽く笑って書類に目を通し始めた。
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