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第13章ー13 不明瞭な気持ちにしおりをはさみました!
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第13章ー13 不明瞭な気持ち
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庁舎を出て、車を止めている駐車場に向かおうとすると、声をかけられた。
「相談に乗ってやろうか」
出入口の外。
街灯の当らない暗い場所に人影を認める。
「結構です」
相手の姿を確認しなくても、声だけで認識できる。
「いろいろ一人で考えたいんです」
「一人で考えて答えが出るものか」
澤井は愉快そうにしている。
それが腹立たしいし、ここのところ、何かと絡んでくるのが嫌だった。
彼が絡むと、心が穏やかではいられない。
一度の関係性がこんなに尾を引いているとは。
「何度もあなたとは話をしてきましたよ」
「じっくりはしていまい」
「そうですね。しかし、いつも別な方向に行きます。今回もそんな気がするので遠慮させてください」
「そうか?おれはそのつもりだが」
保住はむっとして、乱暴に言葉を吐く。
「何度も言っているではないですか。あなたとは、そういうつもりはないんです」
「そうか。では、おれも何度でも言おう。お前は、田口とそういう関係になりたいのか」
「それは……」
分からない。
それは、分からない。
複雑で、理解できないもの。
それは、田口に関する思いだ。
澤井に「お前は田口が好きだろう」と言われた。
好き。
好きは好きなのだ。
何とも思わない相手ではないことは確かだ。
友達というものが、いなかったおかげで友情がよく分からない。
それが、田口への思いを不明瞭にさせている要因の1つでもある。
友情の気持ちが分かれば、今の気持ちがそれとは同じなのか、違うのかが明らかになるからだ。
それが問題だ。
だけど、もし。
友情ではないと言う結論に至ったら?
人間的には、好ましくない澤井だが、保住よりは人の思いを持っている男である。
その彼が指摘するのだ。
『恋心』
恋?
『男と女の間に存在する情愛』
それが本当なら、大変なことになる。
澤井との関係を知っても、何も変わることなく接してくれている田口だが。
さすがに、保住がそんな思いを持っていると知ったら……。
軽蔑される。
気味悪がられるだろう。
「おれの気持ちが、果たしてそこまでなのかどうかは自分でも理解しかねます。けれど、もし、それが本当のことだとしたら……」
「軽蔑されるか?」
澤井は笑う。
おかしな話だ。
人にどう思われようが関係ない。
そんなスタンスで生きてきたのに。
生まれて初めて、怖いと思う。
それが、友達?
一度、親しい関係が出来てしまうと失われるのは恐怖なのだと知る。
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