アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
第13章ー12 完成
-
「お前らしくもない。こんなミス」
澤井は、書類を目の前に出す。
「1つくらい大目にみてくださいよ」
めんどくさそうに、保住は書類を持ち上げた。
日付ミス。
こんなの初めて。
「神崎先生は、どうなっている」
「わかりません」
「何故だ」
「把握していないからに決まっているじゃないですか」
それはそうだろうが。
開き直られても困る。
「何故把握しない。職務放棄か」
「田口に任せています」
「管理職は、把握する義務がある」
澤井はため息だ。
「田口はお前の急所だな。お前をダメにするには、あいつをどうにかすればいいと言うことだな」
「そんなことは……」
保住は、書類を握る。
「あいつは職務を全うしているだけです。問題ありません」
「問題があるのはお前だろう」
「おれも問題があるとは思えません」
澤井は立ち上がって保住の目の前に立つ。
「お前、寝ていないだろう。健康管理できない奴は問題山積だ」
「ご心配なく」
「保住」
「失礼します」
いつもの掛け合いも続かないか。
澤井は、退室しようとする保住を呼び止めようとする。
と、田口が顔を出した。
「出来ました!」
「田口」
「係長、仕上がりました。オープニング序曲から、最後のエンディングまで全てです」
嬉しそうにしていた彼は、保住の覇気のない雰囲気にはっとして言葉を止める。
「係長……?」
「見せてみろ」
澤井の声に、保住には頭を下げてから中に入る。
「こちらです。おれにはよく分かりませんが、終わったようです」
澤井は、楽譜をペラペラとめくり、そして頷いた。
「どうやら本当らしい。至急、製版会社に回せ」
「了解です。この足で行ってきます!」
「原稿は、こっち持ちだ。何部かコピーしていけ」
「わかりました」
田口は、バタバタと局長室を後にした。
合わせる顔もない。
保住は、じっとしていた。
「声かけてやれよ。お前が押し付けた無理難題をこなしてきたんだぞ」
澤井は、そう呟く。
「すみません。言葉が見つかりません」
「そうか」
澤井の部屋を出る。
田口に出会ってしまったら、言葉が出なかった。
まさかの。
田口への罪悪感が、胸を締め付ける。
田口に甘えて。
酷い有様だ。
最悪。
最低。
結局、田口は定時を過ぎても帰らない。
「そう。わかった。お疲れさまな」
谷口は、電話で何やら話していたが、受話器を下ろしてから保住を見る。
「依頼に時間がかかるそうです。何時になるかわからないので直帰させちゃいましたけどいいですか?」
「ありがとうございます」
田口が戻ってこない。
それはそれで内心ほっとしてしまうのは気のせいではない。
顔向けできない。
それが本音。
時計の針は6時。
「帰ります」
「珍しいですね。今日は」
渡辺は笑う。
いいことだと思ったからだ。
「係長は仕事し過ぎですから」
「そんなことは。効率が悪いのです。どうしたものか。元々こんなタイプだから気晴らしの方法も分からないし」
「係長、こういう時は飲み会ですよ」
矢部はすかさずいう。
「しかし」
「大丈夫ですよ。田口を先生に預けちゃったから気がひけるんでしょう?あいつ、そんな奴じゃないし」
谷口は、慰めようとしてくれているようだ。
「ありがとうございます。みなさんに気を使わせました。帰ります」
保住は頭を下げてから事務所を後にした。
それを見送って三人は顔を見合わせた。
「亡霊みたいだな」
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
141 / 344