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第15章ー6 転倒にしおりをはさみました!
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第15章ー6 転倒
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忙しいせいなのか。
時間はあっという間に過ぎて行く。
オペラ上演一か月前。
二月も終わりになる。
今年は雪が多い。
スーツ姿にブーツは合わないが、仕方がない。
革靴では、ツルツルで雪国育ちの田口でも厳しい。
早めに出勤をして、部屋を暖かくしたりしていると、みんなが出勤してくる。
道が混み合うので、早めに出てくる人が多い。
「また一時間かかったよ……まじめに勘弁してほしい」
矢部は大きな欠伸をする。
「道に雪ないのに。なんで渋滞すんだろうな」
「ですよね……。おれは、雪かきで早起きです」
谷口も頷く。
「娘の送り迎えも勘弁だよな……」
渡辺が肩に手を当てて首を横にすると、事務所の扉が開いた。
ゆっくりと。
一同は、はっとして視線をやる。
「係長?」
「おはようございま……す」
保住はドアノブに手をかけ、屈みこんでいる。
「ちょ、今度は何なんですか?!」
田口は、慌てて駆け寄る。
他の職員たちもだ。
「係長、凍傷ですか?!」
「足痛いの?」
「おはようございます……」
彼は、顔色が蒼白だ。
「転びました……」
「は?!」
「え?!」
「こ、転んだって」
「雪道で、豪快に……」
一同は、吹き出す。
「いい加減にしてくださいよ。本当」
「子供じゃないんだから」
「大丈夫ですか?」
考え事ばかりしている男だ。
運動も苦手と言っていたし。
転ぶのは頷けるが。
田口は、心配そうに屈む。
「痛みます?」
「笑い事じゃないくらい、痛い……」
「嘘でしょ」
「係長、病院に行った方がいいですよ」
「おれ、連れて行きます」
田口が、そう言って立ち上がった時。
澤井が出勤してきた。
「何を騒いでいる」
「局長」
澤井は、屈みこんでいる保住を見つける。
「またお前か。今度は何だ」
「転んだそうです。もしかしたら、ヒビが入っているのかもしれません。痛みが尋常ではなさそうです」
田口が答える。
澤井は、面白くなさそうに鼻を鳴らす。
「この忙しい時に」
「すみませんね」
彼はそう言うが、本当に痛むのか。
冷や汗がにじむ。
「おれ、連れて行きます」
田口は、澤井を見る。
脱水事件の時みたいに、彼に持っていかれたくないからだ。
澤井はじっと田口を見てから、軽くため息を吐いた。
「分かった。行ってこい」
「ありがとうございます!」
「それと、」
「はい」
「こいつの受診が終わったら田口、おれのところに来い」
何故だ?
そう思いつつ、「分かりました」と答えた。
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