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第1章 かなしい蝶と煌炎の獅子 〜不幸体質少年が史上最高の王に守られる話〜
潜入23
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裏カジノの遊技場の、更に奥。従業員用の出入り口である扉とは別にある、装飾の施された扉。このカジノにいくつか存在するVIPルームに繋がる扉の向こうの、最奥にある一室。カジノの遊技場や上階にあるバーも顔負けないくらい高価な調度品が並ぶそここそが、オーナーであるデイガー・エインツ・リーヒェンの居室だった。
遊技場をひと通り回り、得意客への挨拶を済ませて帰ってきた彼は、上等な革張りのソファに腰かけ、手にした杯をゆっくりと揺らした。グラスの中でちゃぷんと揺れた深紅は、上質なワインだろうか。
「さっきの彼、一体何者なんだろうねぇ」
部屋にはデイガー以外の人影はないが、彼が語るのをやめる様子はなかった。
「やたらと強力な目くらましがかかっていたみたいで僕にもぼんやりとしか判らなったけれど、あの珍しい髪色、探せば何か出てきそうじゃあないかい? それに、ルーレットの件も気がかりだ。ディーラーはいつも通りきちんと所定のマスに止まるように回していた。にもかかわらず、止まったのはあの男が選んだコマだった。……お前、何か判るかい?」
自分以外は誰もいない部屋に問いかけが投げられる。と、絨毯に落ちているデイガーの影が、一瞬だが揺らめいた。
「……何? そんな馬鹿なことがあるものか。あの男には、呪文を詠唱した様子は勿論、精霊を呼んだ様子すらなかったんだぞ。どんなに優れた魔法師でも、精霊を使役する際は必ず名を呼ぶものだ。風霊を使って球を動かしたと言うなら、どこかで必ず風霊を呼ばなくてはならない。だけどお前だって見ていただろう? 最後の勝負の最中、あの男はただの一度も口を開いていないじゃあないか。例えば目配せひとつで精霊を動かせるって言うのなら話は別だけれど、それはもう人の所業ではない。次元を隔てて外の世界にいるというエルフの王であれば、そういうことも可能なのかもしれないけれどね」
デイガーが、結局何が起こったのかは判らずじまいか、と溜息をついたが、彼の影が揺れることはもうなかった。
「まあ良いや。彼が何者なのかは判らないけれど、僕たちのやることは変わらないしね。まあ、念のため彼の周辺には探りを入れておこう」
そう言ってから、デイガーは握っていたグラスを逆さにした。落ちる液体が、上等な絨毯を赤く濡らしていく。自分の影に滴る赤を見て、デイガーは満足したように微笑んだ。
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