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象徴と警鐘 にしおりをはさみました!
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象徴と警鐘
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朝、いつもより早く目が覚めた。冷たい水で顔を洗って机に向かい、朝食までの時間を自習に費やした。
校舎に向かうまでの間、何故か転校初日よりもずっと周りの視線が突き刺さっているように感じる。気が散って仕方がなく、参考書で顔を隠すようにしながら視線を避けて歩いた。
「唯!おはよう!昨日はちゃんと風呂入れた?」
「うるさい、声がでかい。」
教室に入った途端星野の無駄に大きな声が脳に響く。昨日勝手にネットで家系の事を知ってしまったのを後ろめたく思いながら席に着いた。
「なんだよ、俺は心配してやってんのに。」
「誰も心配してくれなんて頼んでないだろ…昨日は鈴白先輩がシャワー貸してくれたから別に大丈夫だった。」
「へー、イブ様ってそこまでしてくれるんだ。」
鈴白の名前を口にした時、なんだか周りの視線が一気にこちらへ集まるような圧を感じた。星野の方を見るが、その視線には全く気づいていないらしい。
「あと俺はお前と友達ごっこをする気はない。話し相手が欲しいだけなら他を当たれ。」
「なんだよ冷たいな、そんなこと言わずにさぁ…」
結局、昼過ぎに星野は今日も撮影があると言って早退した。星野がいなくなった瞬間、自分の世界がやけに静まり返ったように感じた。
授業が終わった後、すぐに帰って自習をしようと席を立つと、いつの間にか机の周りをクラスメイトに囲まれていた。
「…何か用?」
「編入生…いや、小笠原くん。昨日イヴ様の部屋に行ったんだって?」
「ああ、シャワーが壊れてたから貸してもらっただけ…だから何?早く帰りたいから退いてほしいんだけど。」
目の前の生徒を押し退けようとすると、逆に押し返されて机に腰をぶつけた。
「…お前らみたいに親が金持ってるってだけの下らない人間が金を積んで入学するんだろうな。」
ついそう悪態をつくと、いきなり胸ぐらを掴まれた。その腕がプルプルと震えているが、自分のことを言い当てられてしまって悔しいのだろうか。
また厄介な事になってしまったと冷や汗が背を伝う。この学園で問題を起こして即退学なんてなったら両親を悲しませてしまうに違いない。本当は腹が立って仕方ないが、最終的にここは穏便に済ませようという考えに至った。
「ちょっと落ち着こう。思ったことを口に出したのは悪かった。だからもう離して欲しいんだけど…。」
「お前の親、ただの開業医だろ?一般人が俺達に偉そうな口きいてんじゃねえよ!」
親のことを言われ、つい頭に血が上る。大した努力もしないくせに威張り散らかすような奴は一番自分が苦手とする人種だった。前の学校を退学するきっかけとなった時のことを思い出す。きっとあの時の自分ならまた抑えきれず相手に掴みかかっていただろう。
「失言したことなら謝るよ、ごめん。それで、今囲まれてるのと鈴白先輩になんの関係が?」
「…なんで編入生のお前が“ お呼ばれ”されたのか聞いてるんだよ」
「なんだよお呼ばれって…そもそも俺は本当にシャワーが壊れてて仕方なく借りただけで、先輩とは別に何も…」
そう言いかけると、胸ぐらを掴んでいた手が乱暴に離され、よろけてぶつかった机が嫌な音をたてながら弾かれたように滑る。
「お前ごときがイヴ様に取り入ろうなんて考えるな!どんな手を使ったか知らねえが、恩恵を受けるのは俺くらいの器じゃないと意味ねえんだよ!」
鈴白の地位を考えたらその“ 恩恵”とやらが何となく分かった気がした。自分の家のために権力のあるものに取り入ろうとしている馬鹿と、なぜ自分が同一視されなければならないのだろう。
「何の話をしてるのか全く分からないし、俺は一人でいたいんだ。イヴ様がどうとか、馬鹿馬鹿しいにも程がある」
「クソ、馬鹿にしやがって…!おい、やれ」
さっきから一人で盛り上がっていたそいつが顎で指図をすると、取り巻きらしき生徒に取り押さえられた。元々頭に血が上りやすいだけで喧嘩が強い訳でもないから、いとも簡単に机に押さえつけられてしまった。
自分が暴れて問題になるくらいなら、一方的に殴られたほうがずっとマシだ。痛いのは嫌だし痕だって残るかもしれないけれど、両親に迷惑がかかるのはもっと嫌だった。
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