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F-0130 ユウマ (3)にしおりをはさみました!
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F-0130 ユウマ (3)
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手を合わせて「ごちそうさまでした。」と小さくつぶやいた。食器を持って立ち上がりこちらを見つめ、その後の指示を待つ。台所へ持っていくよう伝えると、その通りに動き、再び目の前に座り直した。食べ始める前にも小さな声だが「いただきます。」と手を合わせていた。ユウマはここへ来る前、どこでそう教えられたのか分からないが、きちんとした躾を受けていたのだろう。ユウマには比較的常識や教養が備わっている。ここに来るコドモたちには、それが普通ではないからこそユウマが特別できているように感じるのだ。
「ユウマ、ちょっとおいで。」
冷たいお茶を二杯入れ、ソファのほうへ招くと、不安げな顔をしながら黙って目の前の床に正座をした。俺は確実に困った顔をしている自覚がある。自分の隣をトントンと叩いて、もう一度「おいで。」と声をかけると驚いた顔をしたが素直にソファに腰かけた。
「ユウマ、なんでここに連れてこられたかわかる?」
「・・・お母さんに、捨てられたからでしょ・・・。おれが、邪魔だから・・・。」
悲しそうに唇を噛みしめる。その行為を指で制し、やめさせる。そのまま両手でユウマの顔を包み、視線を合わせる。
「どうして・・・邪魔だって思うの?」
「お母さん、家に・・・知らない男の人連れてきてた・・・。男の人が来るときは、部屋に行ってって言われてた。」
「その男の人たちは、毎回違う人だったの?」
「ううん・・・。最初は、メガネの人・・・。一番、長く来てた人。」
「長く来てた人?」
「そう。たぶん、付き合ってた人・・・お父さんが帰ってこなくなってから、他の人が家に来るようになった。」
「それは、ユウマが知ってるので何人いたの?」
「・・・・・・三人。」
「ユウマ?」
顔を歪めて俺の服を掴む。何かを話そうと口を開くが言葉が出てこないのか、俺から視線を外し空に漂わせた。
「二人目・・・背の高い人が・・・おれのこと、サンドバッグだって・・・殴られて、当たり前だって・・・。」
自分の意見を言うたびに殴られ、反論をできない状況だったという。自分の母はそれを見ないように、ユウマが殴られ始めると別の部屋へ移動し、守ることは愚か「躾は済んだの。」と聞かれていたらしい。自分が殴られたり、蹴られたりするのは自分が悪い子だったからだと酷く怯え、トラウマになってしまっていた。
「三人目の人は・・・いつもいないみたいに、おれのこと無視してた・・・。おれは・・・本当は、そうやって・・・空気みたいに扱われるのが・・・一番悲しかった・・・・・・。」
大粒の雫が左目から一粒落ちていった。それが顎へ落ちる前に指で拭ってあげると弱弱しく笑った。
「ねえ。おれって、いくらで売られたの・・・?」
「・・・・・・。」
「おれは・・・ちゃんと、値段ついてた・・・?」
「もう・・・考えるのやめな。」
耐えきれなくなったのは俺のほうだった。純粋な目で見つめられるのが嫌で自分の腕の中に閉じ込める。肩に顔を沈めたユウマが俺のシャツをじんわりと濡らす。一度大きく深呼吸をしてから、再び抱きしめなおすと、同じように背中に手を回してきた。
「ユウマはさ、幸せだって思ったことない?」
「そんなの・・・わからないよ。」
「心が温かくなったこと・・・ない?」
「あった・・・かも・・・・・・。」
ギュッと抱きしめる力を強くしたユウマの顔を上げさせて視線を合わせる。少しだけ赤く滲んだ目が痛々しく感じた。過去にあったことを思い出すように少し年齢より幼い表情で笑うと、震えた唇が動き出した。
「お母さんが・・・おれの・・・おれのために、ご飯作ってくれた・・・・」
「そう・・・。」
「いつも・・・残り物とか、お金持たされたりしてたから・・・・・・すごくうれしかった・・・っ」
一度顔を洗ってくるように伝え、ユウマを立ち上がらせる。そのうちに冷凍庫から保冷剤を取り出し、タオルで包んでユウマが帰ってくるのを待った。
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