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器にしおりをはさみました!
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器
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「猫の魂は9つあるって話、聞いたことある?
あれ、本当なんだよ」
「9つ……」
「そう。
身体が朽ちれば魂も死ぬ。
でも、死ぬのは一つだけだ。
他のものは宿主がなくなると同時に、他の依り代を探す。
魂が宿り、命が宿る」
「……よく、分からない」
「つまり、魂と身体は本来切り離されたものなんだ。
どれほど魂が長生きでも、身体は自然の摂理によって朽ちてゆく。
そういうものなんだよ」
「じゃあ、お前も?」
「うん。
……身体の中にはね、魂を乗せる器があって
全ての生物に必ず一つの器がある。
しかし猫だけが、9つの器を持っている。
猫に転生し続ける限り、その数は保たれる」
「魂が消えなければ、記憶も消えない?」
「それに耐え得るものならね。
大抵の猫は、転生しても前世の記憶は残らない。
記憶とは、刻まれるものだから、一度消さなければ上書きされ続ける。
記憶に埋め尽くされれば、弱いものは耐え切れずに壊れてしまう。
だから、人間みたいに長生きする生物に転生するなら尚更、以前の記憶は失われやすい。
それに器が一つしかない場合、他の魂は霧散してしまうんだ。
だからほとんどの猫は再び猫に転生する」
「……オトは?」
「おれは、これまで7回猫に転生してる。
そして、その度に記憶を引き継ぎ続けてきた」
「100年間、ずっと……」
「そう。
100年を超えたあたりから、何故か、人間に化けられるようになった。
きっかけは、ひとが口をつけたアイスだったかな。
本当にびっくりしたんだよ。まさか、
自分が人間の姿になるなんて」
「……」
なら、オトは……
今のオトは、普通の猫と同じように……いつか、死んでしまうということなのか。
「猫の寿命って、どのくらいなの」
「家猫なら20年近く生きることもあるけど、野良は……長くても、15年程度」
「……」
オトは、あと何年生きられるの?
……なんて、
聞きたいのに、怖くて、声が出ない。
そんなおれの思考を見透かしたように、オトは口を開いた。
「おれはあと……せいぜい、3年かな」
それは、想像していたよりも残酷な数字で
おれの思考は停止した。
「……黙ってて、ごめんね」
「……」
「転生したら、また、会いにくるから」
「……どのくらい、待てばいいの」
「……命が宿っても、生まれてくるまでには時間がかかる。
どこに生み落とされるかも分からない。
長い時間、待たせちゃうかもしれないけど、必ず……」
「……っ!」
続く言葉を遮るように、おれはオトの腰に抱き付いた。
「……もう……何も言わなくていい」
「ミコト……」
「分かってたよ。
おれとお前は違うんだって。
一緒に生きていくことなんて、出来っこないんだって、本当は……」
「……」
「……なぁ、オト……」
「うん」
「…………抱いて……?」
「……うん」
逃げ出した。
考えることから、
現実から。
この先も、笑い合いながら一緒にいるためには、
そうするしか……なかったんだ。
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