アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
9にしおりをはさみました!
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
- しおりがはさまれています
-
9
-
「……………」
イラつく、とか、ムカつく、とかよりも。
理解出来ないことが悲しい。
分厚い水槽を隔てたみたいだ。
浅原は人に怒らない。
それなりに、学校じゃ陰口を叩かれたり、無神経な発言だって浴びせられてる。だけど、たいてい無視か、上手に返してる。不機嫌になることは、あまりない。
声をあらげることも。
「………………ごめん、言い過ぎた」
黙ったままの俺に、浅原は謝る。煙草の火を灰皿に押し付けて、奴はそっぽを向く。
「………いや、わかってねぇ俺が悪いんだろ」
俺はそう言って、組んだ腕に顔を伏せる。言われたことを出来る限り思い出す。たいして情報はない。図書館。今日のこと。さっきまでのこと。そのくらいしか、ないから。
「…………………基準がわかんねんだけど」
「…………………もういいよ」
「なに、…………話してぇんだけど。駄目?」
「…………………」
浅原はちらりとまた俺に目を向ける。その目付きなら俺はよく知ってる。もう、あんたなんかどうでもいいよって冷めた視線。
浅原は終わった映画の後始末にかかる。俺は灰皿をまたテーブルに戻した。飲み物で乾いた唇と喉を潤す。
「……………部屋あがったらオッケーってやっぱ単純過ぎない? それってさ、友達と、その、好きな奴と、区別どこでつけんの」
「だから、俺友達いないって」
「大学のは? つーか向こうはお前のこと友達だって思ってるよ」
「思ってねぇよ」
「聞いてないのにわかんないだろ」
「…………………聞くのってそれこそおかしくね? そんなん言うんやったら誰だってお友達だよって模範解答出すやろ。俺だってあいつらにはそう返すよ」
「だな。………」
「…………ていうかね、俺は人を家にあげません。友達だろうがなんだろうが」
「俺はあげてんじゃん」
「お前が初めて」
「……………」
「なんか言い方キモいな」
「あは。初体験、俺でよかった?」
「……………そーゆー冗談、俺は笑えないから」
「ごめん」
「…………じゃあお前の初体験も俺にくれよ」
「……………えー」
「ってなるだろ。ばーか」
「さーせん」
「………………」
「…………………いや普通はならねえよ」
「普通じゃなくて悪かったな。帰るんならタクシー代出すよ」
「は。帰んねーけど?」
だってまだ話し足りない。
ああ、でもまた俺は間違えたみたい。
「………………」
怒ればいいのに。つらそうな顔するのが許せない。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
36 / 197