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第3章ー09 悩みにしおりをはさみました!
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第3章ー09 悩み
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安齋の車は、庁舎から歩いて5分程度のところにある月極駐車場だった。
黒のハイブリットセダンタイプ。
全く持って安齋らしい車だ。
「お前、車は置いて行っても大丈夫なのだろう?」
「今朝は歩いてきた」
嘘だ。
車を置いて行ってあげないと、保住が歩く羽目になる。
夜遅い時間に一人で歩かせるなんて、言語道断だと田口は思う。
車のカギを帰る際、こっそり彼の鞄に忍ばせてきた。
後でメールをしておかないと。
そんなことを思っていると、安齋に促されて助手席に収まった。
安齋は長身だが細身。
男二人で並んで乗るなんて、なんだか変な感じだ。
保住とだったらしっくりくるのにな……。
結局。
こんなことになっても、田口の頭の中は保住のことでいっぱいらしい。
熱のせいもあるのだろうか。
彼の頭の中は結構お花畑。
車に乗ったという安心感もあるのだろうか。
ぽやぽや~としていると、ふと安齋の声が耳について現実に引き戻された。
「お前はずっと室長と一緒なのだろう?室長のことを聞かせろ」
「は?え?……どういうこと?」
まさか。
自分たちのことがバレた訳ではないよね?
どっきりとすると、一気にお花畑妄想が吹き飛んだ。
「どういうって。お前の知っていること全てだ」
安齋は車を走らせる気はないらしい。
エンジンはかけるものの、じっとしている。
そういう魂胆だったとは……。
気に食わない保住の情報を集めて弱みでも見つけたいというところか。
「安齋。お前……」
「あの人は何なんだ。おれたちとそう年齢も違わないのに。出世街道まっしぐら。副市長とも懇意にしている。上司と部下になるのが3度目だって?それだけであの関係性は築けないだろう」
田口は黙り込む。
「大堀はコネだと言い切るが、おれはそう思わない。確かに、おれの書類に難癖をつけてくるから面白くはないが。ただの嫌味な奴だとも思えない。確かに実力はあるのだろう。だがしかし。あの人のやり方がおれにはまだ理解できないのだ」
「理解できないって……。安齋は室長を理解してどうする気なのだ」
「どうもこうもないだろう。理解した時点で、上司として認めるのかどうか決める。ただ、現状ではあの人のやり方を認めることができない」
認めるかどうか決めるとは?
認めてもいいと思っている自分もいるということなのか。
「おれは星音堂である程度自由にやらせてもらった。水野谷課長も星野さんも、おれをよく理解してくれていたのだと、今になってみると思うことだが。この部署は、室長ルールで運営されている。おれはそれが気に食わない。だったら、おれたちじゃなくても、誰でもいいではないか」
ああ。
そうか。
田口はそこで少し理解する。
安齋は拗ねているのか。
自分の実力が認められないと、拗ねているのだ。
きっと。
保住がどういうつもりで大堀や安齋の書類を精査しているのか分からないが、彼のスタンスは文化課時代から変わってはいない。
いつもと一緒。
ただ、この二人をどう扱ったらいいのか、まだまだ試行段階であるのだろう。
「でも。安齋は、おれの最初の頃よりも書類の手直しが少ないし、大堀と比べたって断然仕事の進みは早いだろう」
「それはそうかも知れないが。大堀やお前と比べても意味がない」
「悪かったな」
「おれは、仕事をするからにはしっかりと自分のポリシーでやりたいだけだ。横槍を入れられるのが一番イラつく。しかも同期に近い上司にだ。気に食わない。だが、上司として認めなくてはいけないことも理解している。だから、お前に聞いている」
田口や保住も悩んでいる。
この新しいチームをどう運営していったらいいのか。
だけど。
きっと。
大堀や安齋もまた悩んでいるのかも知れない。
ただ、安齋は、まだ底知れない物が隠れている気がする。
全てをさらけ出す訳にはいかない。
もう少し様子見も必要だ。
田口はそう判断した。
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