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1.出会いにしおりをはさみました!
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1.出会い
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その日、俺はこの世に絶望し、何もかもがどうでもよく感じて、自らの命をたった9の歳で絶とうとしていた。
(ぎゃあ…おぎゃあ…)
……なんだ?
俺は自室で首吊りをする為のロープを手に今正に乗っていた椅子から足を1歩、宙に踏み出そうとしていた時だった。
これは…赤ん坊の泣き声?
しかし、何故赤ん坊の泣き声がこんなど田舎の、しかもこんな夜中の外から聞こえる?それに今日は外は確か…
俺はロープから手を放し、椅子から降りた。
そしてカラリと、部屋にある窓を開けてみる。…やはり今日は一日中大雨。窓を開けた為、先程より一層赤ん坊の泣き声が聞こえてきた。
それにしても大量の雨がこんなに降っているのに何故こんなにも泣き声が耳に届いてくるのだ。それにここらは、俺以外は皆老人暮らしばかり。若い人たちは皆都会へ旅立っている。
これから死のうとしていたというのに、何やら気味が悪い。
…おかしな話だ。死などひとつも怖くはないというのに、こういうことに関しては怖い、などという感情を俺はまだ持っているのか。…なんて臆病者。情けない、俺は、…本当に。
「は…っは…」
俺は傘を差して、雨の降る夜中の外へと飛び出した。赤ん坊の声が気になって、どうにもあのまま死のうという決断が出来なかったからだった。そんな常人なら思わないだろう闇のある理由を俺は抱えながら、ふと家からほんの少しだけ離れた草むらの辺りで足を止めた。
…いる。
俺は傘をさしその場に突っ立ったまま、少し走って乱れた息を整えながら目を草むらの上に置かれたタオルに巻かれた赤ん坊へと向けた。
…こんな無造作に一体誰がどうして、こんな悪天候の日に、わざわざ…。
俺は子どもが嫌いだった。もちろん、赤ん坊も嫌いだった。俺は愛に飢えていたから。親から愛情を無償に注がれる他人の赤ん坊や子どもを見ると、苛立ちが湧いてくるのだ。それに赤ん坊など、ぎゃあぎゃあ泣き喚いてただ煩いだけ。
9歳の俺に赤ん坊のことを理解しろという方が難しい。例え自分が昔そうだったのだから、そう言われたとして、俺にはこいつらの事情など知ったことではない。お前にはお前の、俺には俺の意思がある、ただそれだけなのだ。
「ぎゃー…ぎゃあ…」
「……」
俺はどうかしている。
いいや、死のうとした瞬間から俺はきっとどうかしている。けれど俺はこの今の現実の俺を、俺自身で理解し切れていない。思わぬ事が重なると人は、自分を自分でコントロールすることができなくなる。ただ、絶望して逃げ出したくなる。ここから、この広い世界でたった1人の深い暗闇の孤独からー。
「…まさか、お前が俺を生かそうと言うのか」
俺は広い部屋で1人、先程置き捨てられていた赤ん坊を胸に抱き、相変わらずぎゃぁぎゃあと泣くその様子を他人事のように見ながら、呟いた。
そして、その日から数年、時は流れたーー。
ーーーー
「雨依、朝だよ。おはよう」
あれから、約15年が経った。
シャッとカーテンを開けながら俺はもう随分着慣れた元々母親の着ていたピンクのエプロンを身につけながら、ベッドに潜る-雨依(うい)-を起こした。
「…う…」
「ほーら起きろ〜。学校までは最低片道30分、朝食、歯磨き、その他諸々で、どんどん朝の貴重な時間が削れていくぞ〜」
すると、布団の中でモゾモゾと動いていた雨依が決意したようにバサリと布団を剥ぎ、ベッドから降りた。雨依は朝が苦手らしい。
「朝食、食べてる時間あるか?」
金髪のサラサラの髪を揺らしながら雨依はスラリとした程よい肉付きの体に制服を身につけながら俺の問いに答える。
「食べる。」
雨依は唇の形もいい。それに目も、日本人とは違う青い瞳をしていてまるで宝石のように綺麗だ。
「…でもなぜか国籍は不明なんだよな。」
ボソリと呟けば、え?と雨依に尋ねられながら振り返られる。
平凡な俺とは何もかも違って輝いている雨依の顔…姿に、俺は最早苦笑を零す以外無いのであった。
「では、行ってきます。」
朝食を食べ終え歯磨きをした後に、玄関に鞄を持ち立つ雨依のキリとしたふとした言葉に俺は、あー…と言いながら眉を下げる。
「だから雨依、敬語するなっていつも言ってるだろう」
「え?ああ、そうでした。すみません」
て言ってる傍から…。
何故か雨依は物心ついた時から俺に対して敬語だ。それが、自分が俺の本当の子どもではないことを分かっていたからだ、としても、敬語はちょっとあからさま過ぎるんじゃないだろうか。いくら基本の物事には達観している俺でも多少傷つくというもの。
「まあお前がそっちの方が馴染んでるようならそれでも別にいいんだけどさ…。」
「ありがとうございます。ではこれからも敬語で話させていただきます。」
いや即答かよ。
「…っと、俺もそろそろ仕事行かなきゃか」
「気をつけて行ってきてください、遥」
「お前、ほんと子ども感がないよな。昔っからだけど…」
背も今では俺より高くなって、青年のきりっとした目付きもするようになったからか、余計最近はそう感じる。
雨依の成長はもちろん誇らしいほどには嬉しいが、もう少し可愛げがあっても良くないか?
「まあいいか、雨依、学校行ってらっしゃい」
ぽん、と頭をひとなですると、俺は雨依とは反対方向にある駅へ早足で向かった。
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