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窮地9にしおりをはさみました!
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窮地9
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「やだ、やだやだやだやだ私の脚が! 脚がぁ!」
泣き叫ぶ彼女の傷口から血が溢れ、地面を赤く染めていく。
「なんとかしなさいよアンタたちぃッ!!」
アンネローゼが半狂乱になって己の部下へと顔を向けたが、そこに広がった光景に彼女はまた悲鳴を上げた。それにつられるようにして彼女の見ている方へと視線を投げた『グレイ』もまた、小さく息を呑む。
十数人いた男たちは皆、頭と胴が切り離される形で絶命していたのだ。
(なんなんだよ。一体何があったんだ)
結果的に助かりはした『グレイ』だったが、ますます身動きは取れなくなった。アンネローゼの脚が落とされる瞬間を見ていた『グレイ』ですら、彼女の脚が突然分離して弾け飛んだようにしか見えなかったのだ。恐らく事前に仕掛けられた罠が作動しただとか、そういう類のものだろう。こんな街外れの森に何故そんな罠が仕掛けられているのかは知らないが、罠となると、僅かに身じろぐことすら危険かもしれない。よって、現状における脅威は最早アンネローゼではなく、未知の何かだ。そう考えた『グレイ』が改めて神経を集中させたそのとき、"すぐ傍"で、わざとらしい溜息が吐き出されるのが聞こえた。
驚いた『グレイ』が反射的にそちらへと目を向けると、いつの間に現れたのか、『グレイ』のすぐ傍には黒いラフな衣服に身を包んだ男が佇んでいた。
短くも長くもない半端な黒髪に、同じく黒みがかった瞳をした、平凡な顔立ちの青年。だが、だからこそ異様であった。前触れなく表れた彼は、凄惨とも言えるこの現場に一切驚いた様子がないのだ。いや、そもそも前触れがないにしてもほどがある。神経を研ぎ澄ませていた『グレイ』ですら彼の存在には気づけなかったのだ。まるで、母の幻のように突然姿を現したかのようだ。
珍しく混乱する『グレイ』の内心を知っているのか知らないのか。やや呆れたような顔をして『グレイ』を見下ろした青年は、目を伏せて再び溜息を吐いた。
「何を警戒してるんだか知んないけど、危険だって判ってるなら這いつくばってないでさっさと逃げてよね」
そう言った彼が、『グレイ』に向かって手を伸ばす。しかし助け起こそうとするその手は、『グレイ』によって払われた。当然だ。敵か味方かも判らないような相手の手を取る訳にはいかない。
ぱしんと乾いた音を立てて弾かれた自分の手を青年が見つめ、何度か握ったり開いたりを繰り返した。差し伸べた手を無下にされたことを怒っているのか、はたまた単に痛がっているだけなのか。変化の少ない青年の表情からそれを読み取ることは難しかった。そんな彼を、『グレイ』が睨む。
「……テメェ、誰だ」
警戒心を前面に押し出して向けられた言葉に、青年は何度か瞬いた後、子供のようにこてんと首を傾げた。
「俺が誰かってそんなに重要なことかな。まあ良いけど」
勝手に納得したらしい彼が、再び『グレイ』に向かって手を差し出す。
「俺はヨアン。赤の王に頼まれてアンタの護衛をしてる」
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