アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
62.強く
-
「凛人」
夕飯を終え、リビングのソファにぼうっと座っていると、お風呂から出た透さんに声をかけられ振り向く。
「風呂空いたぞ」
「…うん」
僕はそれに小さく返事をして、ゆっくりとソファから立ち上がり、透さんの横を歩いて風呂場に向かおうとする。すると、
「!」
突然腕を掴まれて、僕は透さんに向かって瞳を大きくさせながら顔を上げた。
「……なに…?」
微かに体を震わせ怯える僕を、しかめた顔をした透さんが見下ろし見つめる。
「…お前……やっぱり何かおかしい」
…!
僕は透さんの言葉に体をビクリとさせながら動揺する。
「な、なにが?僕にだって日によって性格が違う日だってあるよ、口数が少ない日だって、落ち込む日もあるし」
「何に落ち込んでるんだよ?」
…っ
「今のは…例え話なだけで」
「嫌がらせ受けてるのか?何かあったのか、バイト先で」
ビク
「……な……何も無い、よ。僕、お風呂に入っ…」
足を進めようとする僕の腕を、透さんが再び強く掴み引き止める。
「っ…痛い…っっ」
「…何故隠す?」
腕を強く握る透さんに、僕は顔を歪め薄らと涙を浮かべる。透さんは険しい顔をして僕を見ている。
「俺はお前になにかあったのかと、心配してやってるんだぜ。」
「……」
「もし妙なことになっていて、それを今お前が俺に隠そうとしているのなら、…その理由はなんだ?」
静寂な部屋の中で、どこからかやってきたタマが、こちらを向いてミャアと鳴く。
「……何も無いって言ってるでしょ」
僕は頭に蘇るあの人の言葉に下ろした手を強く握り、唇を強く噛む。
“飼われてるんだね”
「凛人」
「僕もうお風呂に入るっ、明日もバイトあるし…っ早く寝なきゃっ」
そう言ってパシッと透さんの手を振り払う。そして、風呂場にずんずんと足を進ませると、後ろから透さんがおい!と声を上げて言う。
「明日は土曜だったな。暇だし送ってやるよ、帰りも迎えに行く」
「…!そ、そんなことしなくていい!僕1人で行ける!」
「うるせえ、ただ送り迎えをするだけだ。別に店の中に乗り込もうってわけじゃねえよ。」
「…っ」
頭を俯かせる僕の頭に、透さんの手が触れる。
「…凛人、本当に何も無いんだな」
最終通告というかのように、透さんが低い声で静かに身動きせずその場に佇む僕に尋ねる。
「分かってるはずだな。俺を裏切って他の奴と何かしてるようなことがあれば、その時はただじゃおかないと」
…もし透さんにそうだと思われたら、僕はそのとき、もう…。
僕はぎゅっと硬く目を瞑った。
「…何も無いよ」
「…」
僕は透さんの手を頭から離した。
「…心配、してくれたんだよね。」
「…」
「ありがとう。でも、僕なら大丈夫」
僕は透さんに向かって力なくにこりと笑んだ。
「ミャア」
「タマ、お前も一緒にお風呂に入るか〜」
足元に寄ってくるタマを抱えて、僕は透さんから逃げるようにお風呂場に向かった。
…だって、あなたにどう説明しろって言うの。働いてる先の雇用主に、変な気持ちを抱かれてることをあなたが知ったら…きっと、僕も、あの人もただじゃ済まないだろう。
もし、バレたら、一体どうなるのか……想像するだけで怖いんだ。僕、未だに透さんも、あの花屋の店長も、どっちも怖い…。
「タマ…僕が自由でいられるのもたった数日で終わっちゃいそうだよ。首輪、また嵌められるのかなぁ…」
「ミャア〜」
僕は返事をするように鳴くタマの頭を薄ら口元に笑みを浮かばせながら、ナデナデと撫でた。
どんなに考えてもなるようにしかならないよね、もし何かが起こっても、そのとき僕が屈しなければいい話。…そうだ、僕は強く生きなきゃ。何があろうと。
僕はタマを抱えて暗くなる表情を無理矢理明るくさせながらお風呂場へと向かった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
63 / 178