アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
三章十九話 柳瀬の話にしおりをはさみました!
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
- しおりがはさまれています
-
三章十九話 柳瀬の話
-
詩鶴との一件から、アルバイトを週に四日から三日に変えた。それからは無理をせずに残りの夏休みを過ごす事が出来た。
そんな夏休みが終わる二日前、柳瀬から電話が来た。
「もしもし、須賀?」
「柳瀬! もしもし〜!」
「お前、電話でも元気なのな」
「へへっ! 明るくしてるとね、頑張ろ〜って元気になるんだよ」
「無理すんなよ」
特に春哉の近くにいる柳瀬は、春哉が無理していないか心配している。部活でも一切手を抜かず、練習試合の時も一番応援を頑張っているのだ、会う度に「無理するな」が口癖になっている。
「してないよ。で、どうしたの?」
「明日、二人で出掛けたい」
「山下は?」
「お前と二人きりで」
「たまにはいいかもね! じゃあ順番で、僕と山下、柳瀬と山下って組み合わせで遊んでもいいかも!」
「え? あーまぁいいけど」
柳瀬の戸惑う声が聞こえていたが、春哉は気付かずに話を進める。
「どこ行こっか? 柳瀬は行きたいところある?」
「お前の家の近くに白葉公園ってあるじゃん。そこはどうかな?」
「いいけど。柳瀬って花好きなんだ?」
白葉公園は、年中季節の花が色とりどり咲いており、花好きの主婦やお年寄り、雰囲気を楽しみたいカップルが多い。
「ま、まぁ。そんなとこ」
「いいよいいよ〜。僕も花好きだし。夏の花はね〜トケイソウが好きだよ。時計の形になってて面白いよね。柳瀬は?」
「え、えっと。朝顔とか」
「あー良いよねぇ。分かる〜。じゃ、明日昼くらいで良いかな。近くにハーブガーデンのカフェあるから行こうよ。ケーキとハーブティーが美味しいよ」
「えっ。いや、いいよ。つかお前意外と乙女趣味?」
「お母さんの趣味だよ! 僕も興味なかったんだけど、お母さんの話聞いてたらちょっと好きになっただけ」
「なるほど。須賀はマザコンって事だな」
「まぁ、お母さんには心配かけたしね。なるべく一緒にいてあげたいの」
「親孝行なのに、からかって悪かったよ」
「自分でもマザコンだと思うし、だーいじょうぶ!」
柳瀬は、中学時代病気で学校に通えていなかったという春哉の嘘の事情を聞いている。それで母親に心労をかけた償いでもしているように見えている事だろう。
翌日、夏休みの最終日に春哉は柳瀬と共に百葉公園にやってきた。公園には夏の花が咲いており、目を楽しませてくれる。
スケッチをする者、写真を撮る者、談笑しながら歩いている者達、色々な人が集まっている。
「わぁ綺麗だね! バラも咲いてるよ〜」
「夏に咲くんだっけ?」
「そのバラによってだよ。沢山品種あるしね」
春哉の花談議に、柳瀬はまだそこまでの知識がないという言い訳をして、聞いているだけになった。
「ごめん、あんまり詳しくなくて」
「なんで謝るの。本当は花に興味無いでしょ? 分かってたよ」
「なっ! 早く言えよ……」
「だって柳瀬が変に無理してるから面白くて」
「須賀ぁっ!」
柳瀬にデコピンされるが、春哉は声を上げて笑った。柳瀬がそこまで怒っていないと分かっている。
「それで? 僕に話があるんじゃないの?」
辺りにはバラ庭園。ピンク、赤、オレンジの小さいバラが咲いていて、春哉のバックを綺麗に彩っている。
「うん。ある」
「やっぱりね、電話じゃ言えない事ってなーに?」
柳瀬は真っ直ぐに春哉に向き合うと、全身に力を入れたように固くなった。顔も真っ赤で、真剣な顔をしている。
「須賀。俺、お前の事が好きになっちまったみたい」
「えっ……」
どうにか絞り出しましたという声の柳瀬。今までそんな姿は一度も見た事がないだけに、春哉も戸惑い、何も言えなくなる。
「好きって、その、付き合いたいとかの好き?」
「そっ、そうだよ。悪いか。嫌だったら聞かなかった事にしてくれねーか? 須賀なら振られても友達のままでいられるって思って告ってんだから」
「結構後ろ向きだね。柳瀬らしくない」
「俺らしさなんて知るか。自分が一番自分の事分かってないんだ」
春哉は少し沈黙し、自分なりの答えを出した。
「ごめん柳瀬。付き合うとかは出来ないや。気持ちは嬉しいよ。これからも仲良くして欲しいな」
「なんで……付き合えないのか聞いてもいいか?」
「うん。まずは僕恋愛ってした事ないんだ。柳瀬への気持ちは恋愛じゃないからっていうのが一番の理由かな。
それに僕は……」
影井さんの所有物だから、と言いそうになる口を噤んだ。言いづらそうに眉を顰める春哉をみた柳瀬は大人しく頷いた。
「そっか。ごめんな、お前の好きな場所で告白なんてして、ここに来た時思い出させるよな?」
「うん、何度も思い出すよ。嬉しい記憶だから忘れてやらない」
「ちぇっ、もっと適当なところで言えばよかった」
「あははは」
二人は表面上笑っていたが、少しの後ろめたさと、今後の距離感をどうすればいいのかと苦笑していたのだった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
50 / 64