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そして、その日/嘘⑷
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それからも、妙に燃え上がってしまった綾木の熱は衰える事を知らず、
何度も新しい袋を開けては行為を続けた。
俺だから良かったが、他のΩや女性ならばとうにくたばっていると思う。
一体この男のどこにそんな力があるというのか。
「顔…見せてよ。来碧さん。」
「い…っ、嫌だ。こんな情け無いの、見せられな…ン、」
綾木の長い指が、ゆっくりと輪郭を撫でる。
そこには少しも無理やりだとか、強引だとかいう言葉は似合わず
俺に合わせてくれる彼の優しさが見えた。
「声も…我慢しないで。」
「無理…!」
「なんで。」
乗り気の綾木は少々厄介だ。
また、綾木の新たな一面を知った瞬間だった。
学生時代のあの一件以来、性行為はイコールで恐怖と繋がれ、αは悪と化した。
そんな自分の感覚を、一つ一つゆっくりと崩されて、絆されていく中
急に段飛ばしな無理難題を突きつけるのはやめていただきたいわけで。
さっきと違って今は素面だ。
出すものを出して、出されたお陰で
すっかり元通りの思考を取り戻している。
「…じゃあ、キスさせて。」
「はぁ?」
「そうしたら、自分の手を噛んだりして…無理に声抑えなくて済むよね。」
綾木は俺の事をよく見ている。
歯形のついた俺の手を取り眉を下げる姿は、やはりαとは到底思えない程弱々しい。
「…仕方、ないな。」
照れ隠しの上から目線。
通常、αならば少しは苛立ってもいいと思うが、綾木にそんな傲慢な感情はこれっぽっちも存在しないらしい。
ふにゃりと柔らかく破顔する顔は嫌いではない。
少し意気地が無いとは思うけれど、口だけの威張った能無しよりもずっと気分が良い。
湿った感触が俺の唇を包み、労るよう丁寧に繰り返す口付けは
嬉しいようで、どこか物足りないとも思う。
上と下とが重なり合う境目に、ぬるりと舌をねじ込んだ。
…が、勿論経験は無い。
そこは…ほら、アレだ。
綾木のこれまでの経験と、α本来の器用さでどうにかしてくれ。
俺の期待通り、綾木は自身の舌で突然の訪問者を歓迎した。
たまに吸い付き、唾液を絡め、そのまま俺の口内へと舌を伸ばし、上顎を擦り、弄んで。
息の仕方もわからず、唾液の飲み込み方をも忘れ、とろりと頬を伝うそれが俺のものなのか綾木のものなのかも判別がつかない。
恐る恐る目を開けて、綾木がどのように呼吸をしているか、そのスキルを奪おうとしたその時。
「……なんで目ん玉かっ開いているんだお前は。」
「えっ……らって来碧さん、めひゃくひゃエrい゛れ゛っ!」
火傷しそうな言葉の爆弾を投下される前に、慌てて綾木の舌を噛んだ。
綾木は俺の事をよく見ている。
いい意味でも、悪い意味でもだ。
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