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18歳以上ですか?
10にしおりをはさみました!
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10
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ボクは考えないようにしていた。
彼とボクの関係を。
彼にボクしかいない意味を。
ボクは知る。
いつものようにボクは本を読んでいて、高尾くんは、ただ、ぼーっとしていた。
「黒子」
「? どうかしました?」
「あのさ、話聞いてくれる?」
「いいですよ」
彼の笑みに、笑みを返す。頬が引き攣ってないことを祈ろう。
そうか、終わりか。
「ほら、妹ちゃんからリストバンド受け取ったでしょ?あれ、どした?」
「ああ、あれは机の中ですけど?」
あの日、高尾くんは誕生日まで開けないでほしい、折角だから、と言った。どうせ、中身は分かっているし、彼がここにいるのだから、これは彼の所持品だ。彼の意見に従って、まだ、リボンも解かずにそのままの形で机に入っている。
「あと、3分で31日なんだけど」
「え、もうですか」
時計を見ると、針は重なりそうで重ならない、そんなところを指していた。
そうか、誕生日か。忘れていた。
「やっと、キミの歳に追いつきますね」
「そう、だね」
足の低いテーブルに向かい合って、黙る。静かな部屋の中に、秒針の音がずいぶん大きく聞こえる。かち、かち、と規則正しく無機質な音だけ。
かちり、と二つの針が重なる。
「黒子、おめでとう」
「ありがとうございます。開けてもいいですか?」
「いいよ」
机の引き出しを開けて、袋を取り出す。
水色のリボンを解く。何の変哲もない、リストバンド。
「ちょっと、デザインが可愛らしすぎませんか」
まるでテニスをする女の子がつけていそうなイメージの色である。
「そう言わないでよ。これでも、真面目に悩んだんだぜ?」
「……嬉しいです」
えへへ、と照れ笑いで返してくれる。
付けてもいいですか、と聞けば頷いてくれる。
「なぁ、黒子。好き」
「…………」
「オレ、黒子のこと、好きだよ」
手首にやっていた視線を正面の高尾くんに向ける。
「これが言いたかった」
ずっと、と付け加えて、ボクを真っ直ぐに見る。
「ボクも、好きですよ」
「そっか。嬉しい」
手を伸ばす。
彼の頬に。
ああ、やっぱり。
彼の頬に両手を当てる。何も感じない。目を閉じれば、そこには何もなくて。
瞬きさえ、怖い。
「ごめんな」
なんで、彼が謝るのか。誰も悪くない。
「キス、してもいいですか」
「いいよ。しよう」
テーブルの上に身を乗り出す。彼も同じように、近付く。
「どうやって、しましょうか」
「目、つぶったらできないよな」
「上手いところで止まりましょう。距離感覚はキミの方が上手にとれるはずです」
目の前で微妙な表情をされる。
目の焦点が合わない程に彼の顔が近くにあって、寄り目になってないかな、と心配になる。そんなどうでもいいことを思っているうちに、
ふっと彼が身を離した。
「キスって……こんな空しいものですか」
「ちげーと思うよ」
「ボクはバニラシェイクの味がするキスがしたかったです」
無茶言うなよ、と笑う。
「黒子、ありがとう」
「いいんですよ、お礼を言うようなことではないです」
俯いたのは、一瞬。すぐにボクを真っ直ぐ見た。
試合の時にしか見ることのできない鋭利で冷たいナイフのような、でも、どこか挑発的なあの表情をもう一度、見たかった。そんなことを思うのは贅沢だ。
「オレ、ちょっと出てくるね」
「はい。行ってらっしゃい」
ばいばい、と本当に微かな声で彼は言った。ボクに聞かせるつもりはなかったんだろう。彼の中でのけじめをつけるための言葉。背中を向けたまま、ひらひらと右手を小さく振りながら窓を通りぬけて行く。
もう、彼はここにかえってくることはないだろう。
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