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6 過去模索編にしおりをはさみました!
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6 過去模索編
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晩メシをすませて帰ろうとすると、玄関を入ってすぐの扉の前で、ふとミーハが立ち止まった。
「どした?」
オレの問いに答える代わりに、うつむいて自分の頬に触れるミーハ。
「痛ぇのか?」
さっき荒野で両頬を思いっ切りペチンとやっちまったけど、もしかして思ったより強かったんだろうか?
そっと手をどけさせて覗いて見ても、白い頬は特にもう赤くねぇ。けど、やっぱ正気に戻させるにしても、ビンタはまずかったかな?
「ごめんな、痛かったよな」
オレの謝罪に、ミーハはブンブンと首を振る。
アゴに手を添えてうつむいた顔を上向かせると、ためらうように視線を揺らした後、ミーハがゆっくりとオレを見た。
デカい目に涙が溢れそうになってんのを見て、とっさにぎゅっと抱き締める。
なんで泣く? 何があった?
訳の分かんねーまま唇を合わせ、薄く開いた口中に舌を差し込んで愛撫する。
なだめるように舌を舐め、丁寧に上あごや頬を舐める。縮こまった舌を掘り起こし、誘うように軽く吸うと、ミーハが「ん……」と小さくうめいた。
涙混じりの声に、少しずつ甘さが増して来る。されるがままだったキスも、やがてオレに縋り付く頃には、深いモノに変わってた。
オレの手はまだまだデカいとは言い難ぇけど、抱き締めるくらいはできるって分かって欲しい。
例え過去にひとりぼっちでも、今は一緒にオレがいる。
舌と舌を絡め合い、吐息を混ぜ、唾液を交わす。抱き締める腕を緩め、ふわふわの猫毛をなだめるように撫でると、ミーハの細い肩がびくんと揺れた。
ちゅっ、ちゅっと軽いキスを落とし、頬や額にも口接けながら、静かな声で率直に尋ねる。
「『劫火』で何を思い出した?」
何をかは分かんねーけど、何かを思い出したのは確実だろう。だって、こいつの様子がおかしいの、他に理由がねーもんな。
ミーハはぐしゅ、とすすり泣きを大きくして、食いしばった歯の奥から、細い息を吐いた。
「しっ……失敗した、とこ」
震える声で告げられた答えに、じわっと胸が熱くなる。
失敗はそりゃ怖ぇよな。練習ん時ならともかく、実戦で失敗は怖ぇ。モンスターも命懸けなら、オレらだって命懸けだ。魔法の発動に失敗したのか、それともタイミングに失敗したのか、どんな失敗かは分かんねーけど、怖ぇのは分かる。
オレはもっかいミーハを強く抱き締め、柔らかな髪を撫でた。
「忘れろ」
腕の中で、細い体がビクンと揺れる。
「イヤな事は、思い出したって、また忘れりゃいーんだよ」
そう言うと……ミーハは小さく首を振り、けど、涙を流しながら少し笑った。
夜中、苦しげにうなされる声で、目が覚めた。うなされてんのは勿論、横で寝てるミーハだ。
「う、うう……あ……」
眉根を寄せ、脂汗をかいて、苦しそうな声で悶えてる。
「ミーハ?」
呼びかけても返事はねぇ。あんまり苦しそうで放っとけなくて、肩を強めにパンパン叩く。
「ミーハ、おい、起きろ!」
けどミーハは目を覚まさねぇ。ギュッと目を閉じたままイヤイヤと首を振り、上擦ったような声で叫んだ。
「無理、です、逃げ、て、×××さんっ」
「はあ?」
えっ、誰っつった?
聞き逃した名前を思い出そうとするより先に、ミーハがヒュッと息を吸う。
「サンダーレイン!」
叫びながら、ガバッと飛び起きるミーハ。
「おいっ」
『雷雨』か!? 突然の呪文にギョッとして身構えたけど、幸い魔法の発動はなかったみてーだ。まあ、杖も持ってねーし、当然か。
「お前、物騒な呪文を叫ぶなよ」
ベッドから降り、タオルを濡らして渡してやると、ミーハは荒い息を吐きながら「ふえ?」とオレを見て首をかしげた。どうやら、何を叫んだのか自覚がねぇらしい。
「サンダーレイン、つってたぞ」
「うお、『雷雨』?」
デカい目をきらんと光らせる様子は、悪夢にうなされてても相変わらずで、物騒だけどホッとした。
天候を操る魔法は、最上級の魔法だ。レアじゃねーけど、スゲー高価。
欲しいって言われても、今の稼ぎじゃそう簡単には買ってやれねぇ。つか、欲しいなら獲物を消し炭にしねーで、アイテム採取に協力しろってとこだ。
つっても、呪文書買ってやったって、普通はそう簡単に会得できねー魔法のハズだ。何たって、最上級。
もしかして「以前のミーハ」なら使えたんかな? 最上級のを?
まあ、レベル80のレアをあっさり発動させたくらいだし、使えるって言われても不思議じゃねぇ。
ただ仮に過去使えたとしても、言葉を知ってるだけじゃ呪文にならねぇ。呪文書の理を、ちゃんと読んで覚えねぇと、魔法は発動しねーんだ。
いや、それとも……今までとは逆パターンで、過去を思い出したら、魔法も思い出したりするんかな?
ゴシゴシと濡れタオルで顔を拭いてる内に、少し落ち着いたらしい。ミーハが小さく息をついた。そのタオルを取り上げ、首の後ろを拭いてやりながら、さっきの夢について訊く。
「うなされてたな。何か、覚えてるか?」
「う、うん……」
ミーハは曖昧にうなずいて、夢を思い出そうとするかのように、座ったまま目を閉じた。
「山、かな? なんか、怖い場所。一面の火の海、で、黒い鎧の、誰か、背の高い人が、いて、オレに……」
「お前に、何だ?」
ミーハはブンブンと首を振り、両腕で頭を抱えてうずくまった。
「オレに、何か言った、と思う。……分かん、ない」
「『無理です逃げて』って言ってたけど。それはどうだ?」
「わ、分かんない」
首を振りながら繰り返される言葉に、「そーか」とうなずいてため息をつく。けどまあ、夢だしな。夢の内容思い出したって、それがホントの過去だとは限んねぇ。
なので、質問を変える。
「その火の海って、『劫火』か?」
ミーハはびくっと跳ね上がり、オレの顔を見た。それからゆっくり目を逸らし、両手を震わせながら服の胸元をギュッと握る。
「ご、『劫火』、オレ、失敗……。一瞬遅くて、お、オレが自信なくて、ビビった、から。い、一瞬でも、チュウチョだめ、なのに。て、敵は、炎よりも速く、飛んで……あっ、こっちにっ!」
とつとつと告げられる過去の状況。
ミーハは目を閉じて鋭く息を吸い、両手で頭を抱えて「わあああっ!」と叫んだ。
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