アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
5
-
「オ、レ……」
ミーハが、虚ろな声で呟いた。
「オレは、ダメだ……」
ダメだ、デキソコナイだ。ミーハはぶつぶつと呟きながら、崩れるようにヒザをついた。ぺたんと地面に座り込み、ぼんやりと過去を見つめてる。顔色が、見たこともねーくらい青い。
一体何を思い出した? 出来損ないって何だ?
気になり過ぎて胃の辺りが痛ぇけど、ここは荒野だ。ミーハのコトばかりに、気を取られていらんねぇ。
「アル!」
タオが珍しく緊迫した声を上げた。
ハッと振り向いたオレが見たのは、こっちに近付く3頭のワイルダーベア。その内1頭は4m級だ、かなりデカい。
「ミーハを守れ!」
タオは鋭く叫んで、シュッと腰の双剣を抜いた。
天才剣士。
赤い閃光。
タオを賞賛する言葉は幾つか知ってたけど、実際にその剣技を目の当たりにしたのは、初めてだった。
双剣を構えて、トン、と地面を蹴る。
ひゅっと体を捻りながら、敵を切り裂く無数の剣撃。あまりに素早くて、ひらめく剣の残光しか見えねぇ。光をまとって、激しく舞う。
けど、ぼんやり見とれてる場合じゃねぇ。
「ミーハ、しっかりしろ!」
ミーハの両肩をきつく掴んで、ガクガク揺する。耳元で大声を出し、何とか立たせようと両腕を引っ張る。
なのにミーハは強情にも座り込んだままで、オレの声すら聞こうとしねぇ。いつもなら、張り切って攻撃魔法を繰り出す癖に。こんな時に使わねーで、何の為の魔法だ!?
「しっかりしてくれ!」
パン、と両手でミーハの頬を叩くと、ミーハの目がゆっくり動き、オレの顔をぽかんと見た。
過去じゃなくて、今を見て欲しい。今、側にいんのはオレだ。
「立て。戦闘中だぞ」
アゴで視線を促し、タオの方に目を向けさせる。
タオは自分の倍以上はあるモンスター相手に、果敢に立ち向かってた。ワイルダーベアは既に4m級の1頭に減って、残り2頭は地面に斃れてる。
「タ、オ君……」
ミーハはぼんやりと呟き、けど、オレに引っ張られて、今度はちゃんと立ち上がった。
ぼうっとしてる場合じゃねぇって、気が付いたんなら上出来だ。
つか、ぼうっとしてても杖を手放さねぇ、その根性は褒めてやってもいいかもな。
「ミーハ、顔狙って『火球』。1発でいい」
ミーハの肩をぐいっと掴み、うなずくのを確認してから大声でタオに呼びかける。
「タオ、よけろ!」
「ファイヤーボール!」
タオが振り向きもしねーで、デカブツのクマから距離を取る。そのクマの顔に、ミーハの『火球』が直撃した。
グオオオオ。
両前足で顔を抑え、ワイルダーベアが尻もちをつく。勿論、その隙を逃さねぇタオじゃねぇ。オレが駆け寄るより速くビュビュッと双剣がひらめいて、ワイルダーベアを地に伏せた。
絶命させたかどうかは、今んとこ分かんねぇ。討伐が目的じゃねーから、斃したかどうかは関係ねぇ。
それは、タオも同じ意見らしい。
「今の内に帰ろーぜ! なんか殺気立ってた。あんま長居しねー方がいい!」
殺気立ってんのは、さっきの『劫火』の影響だろうか?
「ボスになりかけのヤツかも知んねぇ」
ぼそりと言われた言葉にぞくっとする。
ボス討伐なんて、オレみてーな駆け出し剣士には荷が重い。そりゃ、ドラゴン程じゃねーかも知んねーけど、タオみてーな天才とか熟練剣士とかが何人もチームを組んで、討伐に向かうような大物だ。
「悪ぃな。お前がいてくれて助かった」
「いや、ミーハも支援、サンキューな」
ギクシャクとうなずくミーハの肩をポンと叩き、タオと連れ立って荒野を全力で駆け抜ける。途中、ザコモンスターに何度か出くわしたけど、タオのお陰で襲われることはなかった。
ミーハの足取りは、気のせいかちょっと重かったけど、それでも遅れずについて来てくれてよかった。
ミーハがオレらに頭を下げたのは、街道に戻り、街の入り口が見えて来た頃だった。
「あ、あの。さっきは、ごめん」
神妙な顔して謝るミーハに、さっきの蒼白だった気配はねぇ。魔法を使って、タオを支援で来たのがよかったのかも知んねぇ。
「いーって。気にすんなよ」
オレが口を開くより先に、タオがミーハの頭をわしゃわしゃと撫でた。
「けど、荒野でボーっとはしねー方がいーぞ。襲って来たのがワイルダーベアだったから良かったけど。ハイランダーウルフの群れとかだと、さすがにオレも守りきれねぇ。アルに怪我させんの、イヤだろ?」
「う、い、イヤだ!」
大声で叫ぶミーハに、ドキッとする。
古い杖を両手でぎゅっと握り締めてる様子に、オレもタオもちょっと顔を見合わせたけど、それ以上は口に出せなかった。
町に戻って、別れ際にオレもタオに礼を言った。
「今日はマジ助かった。あんがとな」
晩メシを奢ると誘ったけど、タオは「大したコトしてねーよ」と首を振った。
あんなデカブツの他、ザコも含めて相当の数のモンスターを相手にしといて、「大したコトねぇ」って。ミーハよりちょっと小柄なくらいだっつーのに、天才っつーのはスケールがデケェ。
「4m級のは手ごたえもあったし、レア魔法も見れたから、チャラでいーや」
タオは快活に笑って、そしてオレの腕をグイッと掴み、ミーハに聞こえねーような小声で言った。
「あのレア魔法な、多分レベル80ぐれーだぞ」
そう言われて、ハッとタオの顔を見る。
レベル80。オレは魔法の素養なんかねーし、魔法使いのレベルには詳しくねーけど、そりゃ間違いなく上級魔法だ。
だよな、あの焼野原っぷりはスゴかったもんな。けど、問題はソコじゃねぇ。それをミーハが、呪文書に目を通しただけで発動させたっつー事実だ。
つまり、記憶を失くす以前のミーハも、その魔法を『火球』並みに使い慣れてたってコトになる。
――ミーハ。
上級魔法を覚えて、使って。一体、どんな過去を思い出したんだ?
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
5 / 102