アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
67にしおりをはさみました!
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
- しおりがはさまれています
-
67
-
オレらを援護するように、やや遅れて魔法使いたちの呪文が響いた。
「サンダーアロー!」
「アイスアロー!」
魔法の残光を横目で見ながら、やっぱ火はダメか、と思いつつ剣を振るう。1匹、また1匹。素早く確実にコングを仕留め、とにかく徹底的に数を減らす。
右、左、と素早く位置を変え、連携して襲いかかる猿種のモンスター。ちょっと前まですげー手強い印象だったのに、今はギリギリ対処できる。
けどギリギリだから、すげー怖ぇ。
この張り詰めた状況の、バランスが壊される瞬間が怖ぇ。
怖ぇなんて言ってる場合じゃねーし、剣を振るって敵を倒すのに精一杯で、考えてる余裕もねーけど……その今の、余裕のなさが怖かった。
「ストーンブラスト!」
ミーハの高い声と共に石の礫が連射され、バラバラと音を立ててウッディコングどもを退ける。
「ストーンアロー!」
「アーススティング!」
よろめいたコングを、すかさず攻撃する魔法使いたち。
グギャッ、ギャアッ。コングどもの悲鳴と威嚇とが、あっちこっちで入り混じる。
キョッキョッキョッキョ。さっき中流でも聞いた呼び声が不気味だ。
ボスが1頭だけとは限らねぇ。
早く、ザコを減らさねーと。
けど、気持ちばっか焦っても仕方ねぇ。オレが思いつく殲滅魔法はっつったら『劫火』くらいで、けどこんな森ん中で使えねーのは確かで、ミーハに指示を飛ばしてやることもできなかった。
バキバキ、と森の奥で木々が倒れる音がする。
ギャッギャッギャッ。キョッキョッキョッキョ。一斉に喚き始める、ウッディコング。跳ね回るように動いてて、モンスターのくせに喜んでるみてーだ。
大気が震動し、遠くから咆哮が響く。
一旦後ろに下がり、同じく下がって来たタオと顔を見合わせる。
「やっぱ来たな」
ニヤッと笑うタオは、こんな時でも前向きで嬉しそうで頼もしい。負けじとオレもニヤッと笑い、「だな」とうなずく。
図体と威圧のデカさは脅威だが、気配もデカいから油断のしようがねぇのはイイ。
「撤退を……!」
魔法使いの誰かが言ったけど、構っていられねぇ。
「逃げんなら、逃げろ」
振り向く余裕もねぇまま、背後の連中に言ったとき――頭上からデカい影が落ちて、ギョッとした。
来た、と、叫ぶ間もなくジャンプして衝撃を避ける。直後、ドスーンと地響きを立て、ボスが河原に着地する。地を這う衝撃波。続いて放たれる直近の威圧。
どっから飛んで来たのか、考える間もなく剣を振るった。
「くらえっ」
機動力を奪うべく、まず狙うのはボスの足だ。タオと2人して剣を振るい、デカい足を攻撃する。
「ストーンアロー!」
ミーハの声が響き、石の矢がウッディコングボスの胸を狙う。けど、ぶんっと太い腕で払われて、ダメージに至らねぇ。
「アイススピアー!」
「アイスブラスト!」
続けて放たれた攻撃も、やっぱあんま効いてなくて、ダメージは少なそうだった。
「顔を狙え、ミーハ!」
指示を出しながらジャンプして、ぶんぶん振り回される腕を避ける。
「このっ」
タオが地面を蹴り、ボスに斬り付けた。
「『火槍』だ、ミーハ! 顔を狙え!」
オレの知ってるミーハは、そんな魔法、使えなかった。けど、200もの魔法を知ってるっつー「今」のアイツなら、きっと上手く使えるんだろう。
「迷うな!」
「いけません、火は!」
オレの指示を、誰かが横から否定する。
誰かは分かんねぇ。振り向いてる余裕もねぇ。オレにできんのは剣を振るい、ボスに少しずつでも斬り付けること。
高い木もねぇ開けた河原じゃ、さっきみてーなタオの奇襲も使えねぇ。
じゃりっ、と足元の小石が鳴る。
耳障りなザココングの鳴き声が響く。ガアアァァァッ。ボスの咆哮と威圧に、一瞬音が遠くなる。
負けじと地面を蹴り、腕に、足に、剣を振るうオレとタオ。
タオの闘志が赤いオーラとなって、揺らめいて走る。オレも走る。
「すごい……」
誰かが呟くのが聞こえたけど、構ってらんなかった。タオに感嘆する暇があったら、魔法の1つでも打てっつの。
「アル、右腕!」
タオの指示に従い、返事もしねーままジャンプして、ボスの右腕に剣を刺す。同時にタオも地を蹴って、左腕を斬り付けた。
ガアアッ。痛みにうめき、ウッディコングボスが両腕を下げる。
顔から上ががら空きで、今だ、と思った。
「ミーハ! 信じろ!」
大声でかつての恋人の名前を呼ぶ。
以前のアイツなら、きっとこんな時、ちゅうちょなんかしなかったのに。信用がねーのは当然だけど、戦闘中なのに寂しくて痛い。
くそっと思いながら、ボスの腕から剣を無理矢理引き抜いた直後――。
「ファイアースピア! ファイアースピア! ファイアースピア!」
ミーハの声で『火槍』が放たれ、ボスの顔面を直撃した。
ギャアアアアッ! ゴガアアアアッ!
悲鳴混じりの咆哮が響き、下がってた腕が振り回される。
「うわっ!」
慌ててジャンプして距離を取り、ズザッと河原に着地する。
「火だ!」
魔法使いのリーダーの声を合図に、『火矢』や『火槍』がボスを襲った。
再び響く、悲鳴混じりの咆哮。ボスを守るべく、ウッディコング達がミーハら魔法使いに襲い掛かる。オレとタオはそれを必死に切り刻み、一瞬ボスから目を離した。
ザッ、と砂利を踏み締める音が響いたのは、その直後だ。
ハッと振り向いた瞬間、ウッディコングボスは顔を押さえ、右に左にジャンプしながら森の奥へと姿を消した。
ギャッギャッと鳴きながら、残りのウッディコングも去っていく。
あっけないくらいの引き際。
「逃げ、た……?」
呆然とミーハが呟くのを聞きながら、オレも「ああ……」と剣を収めた。
―――――――――――――――
短期集中連載にお付き合いくださってありがとうございました。この続き、王都撤退編は、そうお待たせせずに書きたいと思います(希望)。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
67 / 102