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休憩の後は、休みなく荒れ野を駆け抜けた。
間もなく首都を囲む壁が現われ、街の影が見えてくる。それを見て、ああ、着いたなと思った。
ミーハとの束の間の旅ももう終わりだ。分かってるハズなのに、途端に終わらせんのが惜しくなんのは、未練タラタラだからだろうか。
今、こんなに近くにいんのに。
「……なあ、オレらと一緒に来ねぇ?」
ハマー(馬)の速度を落とし、同乗する魔法使いの細い体を抱き締める。
「王都を出て、オレらと……オレと、一緒に組まねぇ?」
声が震えそうになんのを抑え込み、精一杯の想いを告げる。
ドキドキし過ぎて、心臓が痛ぇ。
タオがオレらより少し向こうで、馬を止めた。友達の顔も見れねぇくらいの緊張。けど、ミーハは――。
「な、なん、で?」
戸惑ったような声で、オレの誘いの理由を訊いた。
好きだから、って理由じゃ通じねーんだろうか? じわっと赤くなる頬を見てると、こっちも期待したくなるけど、求めてる反応には程遠くて、かなり寂しい。
恋人だった記憶をなくしたミーハは、やっぱオレの知ってるミーハじゃなくて、現実を思い知らされる。
思い出して欲しい。
思い出さなくてもいーから、もっかい好きになって欲しい。けど。
「お、お、お、オレ、は……」
ローブの胸元をぎゅっと握り締め、うつむいて言葉を濁す姿を見せられると、それ以上強く誘うことはできなかった。
はあ、とため息をつき、うつむくミーハの頭をぽんと撫でる。
「ムリにとは言わねーよ。でも、いつか思い出してくれ」
努めて口調を明るく変え、再び馬を走らせる。タオが向こうで神妙な顔してんのが見えたけど、今は軽口叩ける気分でもねーし。そのまま黙って、王都を目指した。
王都に着くと、ミーハの仲間の魔法使いたちがすぐにオレらを出迎えた。
さっきよりも大人数で囲まれて、さすがに一瞬身構える。けど、幸いオレらを攻撃しようって訳じゃなかったみてーだ。
「ジュニア様、ご無事で」
山でのリーダー格だった男が、ミーハの前にひざまずいた。
「お怪我はございませんか?」
と、心配そうに訊いてるとこ見ると、ヤツらはヤツらなりにミーハのことを心配してたみてーだ。オレらに対しても、ミーハを無事に送り届けたことに感謝して、頭を下げた。
ただ、だからってあの嫌味とかスパルタぶりは肯定する気になれねーけどな。
「別に。オレらは大したことはしてねーよ」
「そーだな、凄腕の魔法使いが一緒で、むしろ楽させて貰ったしな」
タオと一緒にそう言って、過剰な感謝を遠慮する。
話の合間にちらっとミーハの方を見ると、ミーハもオレと同じように、仲間に囲まれつつ、オレらの方をちらちら見てた。
「お2人とも名のある剣士様でしょう。『赤い閃光』様と……?」
魔法使いの男に言われ、タオと顔を見合わせる。
「いや、コイツはそうだけど、オレは……」
「まだ二つ名が無いのですか?」
そりゃータオと一緒にいりゃ、そんな風に見られるかも知らねーけど、ズバッと言われるとムカッとする。
つーか、タオやルナみてーに、バカ強い剣士がそうそういるかっつの。
「無名で悪かったな」
ちっ、と舌打ちして顔を背けると、横でタオに「拗ねんなよ」って笑われた。
「けど、お前だってかなり強くなったと思うぜ」
って。その話は前にも聞いたけど、自分でまだまだだと思うんだから仕方ねぇ。タオやルナを越えるには、まだ先は長そうだ。
「イヤミか」
「マジでマジで」
タオと言い合いながらヒジ打ちし合ってると、「あ、のっ」と横から声を掛けられた。
ハッと見るとミーハで、さっきの今だからちょっと気まずい。
けどミーハの方はっつーと、気まずさなんか微塵も感じてねぇようだ。ちょっと頬を赤くしながら、まっすぐにオレの顔を見つめてる。
「……何?」
じくっと痛む胸を抱えながら短く訊くと、「な、まえっ」って。
「アルだよ」
「じゃ、じゃあアル、君。あ、あ、あ、あの、アル君、の、ふ、二つ名、『蒼風』ってどーです、か?」
アル君、って呼ばれたのにもドキッとしたけど、「蒼風」ってのにもドキッとした。
「そ、そ、『蒼風剣士』、とか」
って。
「赤い閃光」や「黒の烈風」に比べると何となくレベル低そうだけど、オレにとっては問題じゃなかった。
誰より愛おしいヤツが考えてくれた名前、受け取らねぇって選択肢はねぇ。
「ああ……それでいい……」
不覚にも視界が滲んだけど、ぐいっと手の甲で目元をぬぐい、ミーハの顔を晴れ晴れと見据える。
「ありがとな、ミーハ。一生大事にする」
ニカッと笑いかけ、柔らかな猫毛をわしわしと撫でてやると、ミーハは「ふおっ」と声を上げて、リンゴみてーに真っ赤になった。
そんな風に赤面すんのを見せられると、どうしても胸が痛む。
また恋人に戻れんじゃねーかって、期待に震えて自分でもヤベェ。諦める気なんてちっともねーけど、でもこの場で強引にさらうこともできなくて、どうすりゃいーのか分かんなかった。
「お礼に、1個アドバイスしてやるよ」
頭を撫でながら、そっと顔を寄せ、耳元に囁く。
「『転移』も『帰宅』も、『転送』と同じくお前ならできる。自分の帰る場所が分かんねーなら、会いたいヤツの顔、思い浮かべて唱えてみな」
「会、い……?」
デカい目を見開いて、オレを見つめるミーハにうなずきを返す。
例え、そん時思い浮かべる顔がオレじゃなくても――いつか自信を取り戻して欲しい。
笑って欲しい。幸せでいて欲しい。
オーバーキル気味にすげー魔法をぶっぱなす、小柄な魔法使いをこの腕に抱きてぇと思った。
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