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魔法使いたちはその後、オレらが残して来たウッディコングボスの死骸も取って来てくれたようだった。
報酬はオレらと魔法使い側とで折半になったけど、ボスからの素材も半分貰えたし、正直かなりの稼ぎにはなった。
ミーハの「転送」で王都に送られたウッディコングの死骸の山も、討伐報酬としてプラスされてラッキーだ。
素材として金にならねぇそいつらの死骸は、その後全部どっかに「転送」されて、噂だと「劫火」で焼かれたらしい。そういや、焼き尽くされたモンスターからは、たまに宝石が採れることもあったっけ。
けど、ミーハの身内じゃなくなったオレらには、もはや関係のねぇ話だ。
魔法で処理したのはミーハなのかとか、うまく魔法が使えたのかとか、それで何か思い出してねーかとか……気にはなったけど、知りようがねぇ。
オレら自身がちょっと有名になったり、知り合ったりしたくらいじゃ、現状も変わらねぇ。ミーハに面会もできねぇ。
「一緒に仕事をしたからといって、図々しくも知り合いヅラをするな」
とか。
「取り入ろうとしてもムダだ。失せろ失せろ!」
とか。門前払いされるのは相変わらずで、やっぱ簡単には会えそうになかった。
王都に滞在してた冒険者たちは、ボスの存在が分かると、競うように山に向かってった。巣の位置はまだ特定できてねーけど、この分じゃきっとすぐに見つかるだろう。
その一方でオレらはっつーと、山で酷使した剣の手入れに手間取ってた。
なにしろ、斬ったモンスターの数も覚えてねぇくらいだったもんな。刃こぼれって程じゃねーけど、帰り道は多少切れ味落ちてたし、メンテナンスは必要だろう。
この前の武器屋にしばらく預けて、手入れと研磨をお願いする。
剣が戻るまでは狩りにも出かけられそうにねーから、その間にミーハにもっかい会って、ゆっくり話をしたかった。けど、未だに門前払いされるんじゃ、打つ手がねぇ。
仕方ねーからついでにボスコングの素材を使って、ブーツを2人分作ることにした。
ウッディコングボスの毛皮は丈夫で、長距離を走んのにいいらしい。身軽さにも補正がつくっつーから、近接メインのオレらにゃぴったりだ。
「まあ、火には弱ぇけどな」
タオはちょっと不満そうにぼやいてたけど、別に火山に行こうって訳じゃねーんだし、そこらで狩りをすんのには十分だ。
つーか、タオは今でさえすげー身軽で素早いっつーのに、これ以上素早くなってどうすんだっつの。
「もうお前、肉眼で見えなくなるんじゃねぇ?」
「んな訳ねーけど、そうなったらヤベェな」
軽口を言い合い、ゲラゲラと笑い合う。
よく考えりゃオレら、せっかく王都に来てるっつーのにろくに観光もしてなかったし。金にも余裕があったから、しばらくのんびりしようってなった。
武器屋や武具屋、食堂をあちこち回り、色んな店をゆっくりと冷やかす。王都名物だっつー菓子や、名物料理も食いに行った。
ここに来るまでの間に色んな町や村に寄ったけど、そういや名物らしい名物っつーと案外少ねぇ。砂漠の街で食ったサソリや、サボテンステーキみてーなインパクトは、なかなかなかった。
砂漠のこと考えると、やっぱちょっと胸の奥がちくっとする。
あん時のオレが、今くらい強けりゃ……。そう思わねーでもねーけど、過ぎた事は仕方ねーし、力不足だったのも確かだ。
今なら、デザートライオンとどんくらい戦えるんだろう?
そういや、アイツらの毛皮って耐火性ありそうだよな。
……そんなことを考えてたからなんだろうか? ふらっと立ち寄った掲示板に、砂漠への護衛依頼があんのに気が付いた。
――依頼:護衛
場所:砂漠の街と周辺オアシス
報酬:金貨20枚――
護衛依頼に金貨20枚はよくある金額だが、サソリのことと遠方だっつーの考えると、かなりショボイ。
スルーだな。そう思って別の依頼書を見ようとした時、ふと依頼人の名前が目に入って、二度見した。
――依頼人:雑貨店主ハマー ――
「ハマー……?」
そう珍しい名前じゃねーし、他人だっつー可能性もある。けど、このビミョーな値段設定に、何となくヤツの顔が思い浮かんだ。
「なあ、この依頼人の話、聞きてーんだけど」
仲介屋に申込み、ひとまず依頼をキープして、依頼主の店の場所を尋ねる。
タオって、ハマー(人間)の顔を知ってたっけ? 疑問に思って一応訊くと、「どーだろ?」って首をかしげられた。
「けど、その名前は覚えてるぜ。確か、ミーハの幼馴染だろ? 仲いいヤツもいたんだって聞いて、オレ、ホッとしたもんなー」
タオの言葉に、「ああ……」とうなずく。まだミーハの過去や素性を、オレらが全く知らなかった頃……真っ暗で冷たい人生だけじゃねーんだなって、ハマーの存在が教えてくれた。
それは、じーさんとこに引き取られる前、両親との思い出に直結することではあったけど、優しい記憶としてミーハの中に残ってた。
雑貨店への道をタオと2人で歩きながら、ハマー(人間)についてぼんやりと考える。
オレのことを忘れちまったミーハは、ハマー(人間)のことは覚えてんのかな?
記憶を失くしてた間のことを忘れちまってる訳だから……ガキの頃のことなら覚えてんだろうか?
じりっと嫉妬しそうになんのを、首を振って打ち消す。
「で、どーすんの? この依頼受けんのかぁ?」
「迷ってる」
「何だそりゃ」
すかさずツッコミを入れられたけど、ホントに迷ってんだから仕方ねーだろう。
ミーハのいる王都から離れたくねぇ。
王都に拠点を移して狩りを続けてりゃ、またいつか一緒に組んで仕事できるかも知れねぇ。そしたらまた……ちょっとはオレのこと、思い出してくれるかも?
けどそう思う反面、いつまでもダラダラと宿屋暮らしじゃいられねぇとも思う。
オレの拠点はあくまでも、ミーハと一緒に暮らしたあの家だ。それを手放す気持ちがねぇ以上、長く留守にはしておけなかった。
魔法使いは多分「転移」で依頼現場に行くんだろうし、記憶喪失になった山だって、オレらの地元に近かった。だから王都にこだわる必要はねぇ。
王都のシーン家の門前をうろついたって、会える確率も高くねぇ。
王都に居続けるか、一旦帰るか。依頼主はあのハマー(人間)なのか、別人か。いつまでも決断できねぇオレにとって、これは賭けだ。
やがて到着したハマー雑貨店は、王都のちょっと外れにある、ごちゃっとした店だった。生活用品からガキのオモチャ、駄菓子の類まで売ってて、まさに「雑貨店」だ。
店頭にはエプロン着けた店員らしき男が2人いるが、2人ともハマー(人間)じゃねぇ。
ハズレだったか?
「ちわー、依頼書見て来たんスけどー」
ドキドキしながら、黒髪の方の男に声を掛ける。
「ハマーさんって、アンタ?」
そう訊くと、男は爽やかに否定して、店の奥に向かって「店長ォー」と声を張り上げた。間もなく「はーい」と緩く返事しながら現れた店長は、見覚えのある青年、で。
「あれ、アルじゃん。なんでここに? ミーハは?」
明るい声で笑いかけられ、久々に胸にグサッと来た。
――――――――――――――――――
ここまでお読みいただきありがとうございました。
この辺りで王都の話は終わりになる予定です。次は砂漠の街へ。続きは年内に書ければと思います。
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