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さっそくスペルショップに行ったけど、『転移』の呪文書はなかった。その代り、『帰宅』って呪文書を勧められた。
どうも、家への転移しかできねぇ魔法のようだ。その代わり距離制限がねぇらしい。
つまり、首都みてーな遠いとこから『転移』して来んのは難しいけど、『帰宅』なら簡単なんだと。
どっちが便利かは分かんねぇ。ただ、「レベルは『帰宅』の方が低いよ」と、スペルショップの店主が言った。
「普通、まずはレベルの低い魔法から覚えていくもんだ」
そりゃ確かに、普通はそうかも知んねーけど。
「でもコイツ、『劫火』使えるし……」
オレがそう言うと、店主は「ああ~」と分かったようにうなずいた。
「いるいる、そういう魔法使い。攻撃魔法ばっかり得意で防御が下手だったり、火系魔法ばっかり上達して、水系魔法がイマイチだったりね」
オレはミーハをちらっと見た。
ミーハは目を逸らしてる。自分でも、ちょっとは自覚があるらしい。
「攻撃系が得意なら、移動系はどうなのかねぇ? 代々続く大魔法使いの家とかだと、そういうのにも詳しそうだけど。まあ悪いことは言わないよ、『帰宅』から買ってみな」
そこまで言われたら、反論のしようがなかった。
「そうですね、そうするか。な?」
ミーハは「うえ」とか「で、で、も」とか言ってたけど、オレはミーハに『帰宅』の呪文書を買って渡した。
渋ったって、どっちみち『転移』の呪文書はねーんだし、仕方ねーよな。
それに――ミーハにはわざわざ言わねーけど、『転移』を覚えさすの、ちょっと怖え。
せっかく『劫火』も『転送』も、動揺しねーで連発できるようになったっつーのに。『転移』覚えて、古傷えぐることねーんじゃねーかと思うんだ。
いや、勿論、何があっても側で支えるって誓ったけど。そうしてーけど。
でもやっぱ、ミーハが泣くのは、出来ることなら避けたかった。
結論から言うと、ミーハはその呪文をすぐには使いこなせなかった。
「ゴーホーム!」
「ゴーホームッ!」
愛用の杖を構え、何度呪文を唱えても、術はちらっとも作動しねぇ。
「う、え? な、なんで?」
さすがのミーハも、スゲー動揺してた。キョドリ具合がいつもの倍だ。
「て、『転送』よりレベル、低いくせに」
って。オレに怒っても知らねーっつの。
まあ、呪文書読んで術が使えねーとか――こんなコト初めてだったし、動揺すんのも無理はねーけど。
焦ってムキーってなってんのも、なんか珍しくて可愛い。
ひょっとしたら、「前のミーハ」が知らなかった呪文なんかな?
その可能性は十分あった。だって呪文書って、オレは魔法使いじゃねーからよく知らねーけど、スペルショップで買えるだけでも1000巻とか2000巻とかあるって話だし。
いくら謎のスパルタ教育受けてたって、まさかそれ全部、16歳のミーハが覚えてるハズねーから……知らねぇ呪文の100巻や200巻は普通にありそうだ。
つーか、今までそれにブチ当たんなかった方がまぐれだ。
きっと今回のことと同じように、『転移』が使えたら『帰宅』なんかいらねぇつって、覚えようとしなかったんだろうな。
「仕方ねーじゃん。地道に練習しようぜ」
オレはミーハのふわふわ頭をポンと撫でて、励ますように笑いかけた。
ミーハは唇をとんがらかせてご不満顔だったけど、クチバシみてーになってるソコにちゅっとキスしてやったら、ぷふっと笑った。
そうそう、やっぱ笑顔がいーよな。
いきなり遠くからじゃダメなんかと思って、家の前の路地のちょっと向こうから、呪文を唱えてみたりした。
逆に、視界から隠れる場所じゃねーと発動しねーんじゃねーかってんで、街はずれにまで行って試してもみた。
けど、場所がどうっつーより、やっぱ練習しかねーんだろう。
オレがタオと剣の稽古をする横で、ミーハはひたすら『帰宅』の呪文の練習をしてた。
「へ~、ミーハでも使えねぇ魔法ってあるんだな~」
タオは、ご不満顔のミーハにやっぱり笑いながら、面白そうに言った。
「単純に家じゃなくてさー、『アルの待つ家』って考えてみたらいーんじゃねぇ? アル、お前先に帰ってろよ」
「はぁ? 関係ねーだろ?」
オレは反論したけど、タオに「いーから、いーから」って背中を押されて、広場から追い出されちまった。
ミーハの練習を見といてやりたかったのに。
つーか、「オレの待つ家」を想像しねーと転移できねーんじゃ、オレと一緒に外出先から家に帰ることって……できねーんじゃねぇ?
それってビミョーに意味がねーよな。
いや、まずオレを『転送』で家に戻しといて、そんで改めて『帰宅』すりゃいーのかも知んねーけど、二度手間だ。
……使えねぇ。
やれやれ、と家に帰って水飲んで一息ついた頃――ピカッ、と白い光と共に、ミーハが目の前に現れた。
「うわっ」
さすがにビビった。不意打ち過ぎんだろ。
ミーハも意外だったんだろうか、ぽかんと口を開けてぼうっとしてる。
「今のそれ『帰宅』? できたんか、スゲーな」
オレは取り敢えず、そう言って誉めながらミーハの頭に手を伸ばした。柔らかな薄茶色の猫毛を、思う存分掻き回す。
ミーハもスゲーけど、タオもスゲー。さすがバカと紙一重の天才剣士。発想が非凡だ。
こんな早く『帰宅』を使えたって事は、やっぱ単純に「家」を想像するだけじゃダメだったんだろうな。
苦笑して、ぽかんと開いたままのミーハの口に、ちゅっと軽いキスを贈る。
「お帰り」
オレがそう言うと、ミーハは大きな琥珀色の瞳から、いきなり大粒の涙をこぼした。
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