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ドウッと音を立てて、砂の上にデザートライオンが倒れた。
その巨体を長い足で更に蹴り付け、ルナが「へぇ」と笑みを浮かべた。
「ちゃんとトドメ刺せてんじゃん。急所を一突きねぇ、……やるじゃねーか」
尻もちをついたままのオレに、大きな手が差し出される。
「どーも」
パチン! 音を立ててルナの手に手を合わせると、ルナは笑って、オレを軽々引き上げてくれた。
ぐるっと周りを見回すと、オレの斃したヤツの他に、倒れてる砂色のモンスターは3頭いた。
討伐依頼は10頭だ。つまり、残り6頭。
「残りは?」
ルナを見ると、「現れなかったな」って苦い顔で言われた。
「オレらじゃエサ不足だったかも知んねー。馬連れてなかったし、食料も持ってなかったもんな」
そう言や、まだ人間が食われたっつー話は出てねーんだよな。
馬を危険にさらすのもイヤだし。じゃあ街の市場で、なんかアイツらの食いつきそうなエサを用意して来た方がいーんだろうか?
「仕切り直しだな」
ルナが、砂漠をぐるっと見回して言った。
「陽も高くなって来たし、デザートライオンは夜行性だ。もう夕方まで出ねーだろ」
見れば、タオもルナも剣を収めてる。
「街に戻るぞ! チビ、お前も休め!」
ルナがミーハを大声で呼んだ。
そのミーハはっつーと、オレらよりちょっと離れた位置で杖を握ったまま、ぼうっと立ってる。
「ミーハ!」
オレは恋人の名を呼びながら、砂の上を駆け寄った。
心配させたよな。
特に『氷山』が破られちまった時とか。オレもびっくりしたけど、ミーハはもっとビビっただろう。
やっぱ火系のモンスターには、前にタオがちらっと言ってた『凍土』とかじゃねーと、無理なんかもな。それか『雷雨』か。
「ミーハ、お疲れ」
笑顔で声を掛けて、ふわふわの猫毛頭をぽんと撫でる。
けど、いつもならニコッと笑ってくれるのに、なんでかうつむいたままだ。
「ミーハ?」
顔を覗き込むと、パッと逸らされる。その左手は、服の胸元をギュッと握り締めていて――ああ、と思った。
不安な時の、コイツの癖だ。
「どうしたんだよ?」
なるべく軽い口調で訊きながら、細い体を抱き寄せて抱き締める。
なんかまた思い出したんかな? 失敗の記憶? それとも、冷遇されてた記憶だろうか?
さっきミーハが使ったんは、『水球』と『氷山』だったな。前に『水球』使った時は、たき火を消した時のこと思い出したって言ってたけど……それって、ルナと一緒だったんだろ?
『氷山』の時は、ノルマがどうこう言ってたし。
一体どっちに関係する記憶だ? それとも、オレが戦闘に夢中になってる時に、他の魔法でも使ったんかな?
ミーハの体は、少し震えてる。
抱き締める腕をちょっと緩めて、白い頬に軽くキスしてやると――向こうでタオが、拳を振り上げて大声で言った。
「コラ、 そこのバカップル! 街に帰るぞ!」
って。
バカップルで上等だっつの。
ははっ、と笑うと、ミーハがゆっくりと首を動かしてオレを見た。長いまつ毛に囲まれた、琥珀色のデカい目が少しうるんでる。
「ほら、行こうぜ」
ニヤッと笑ってみせると、ミーハは唇をへの字に曲げて、こくっと小さくうなずいた。
「急げ! サソリがまた出ても知んねーぞー!」
タオの向こうでは、ルナがシャレになんねー脅し文句を叫んでる。
けど、ルナの言う通りだ。
アイツら砂に隠れてっから、知らねー内に囲まれてた、なんてこともありそうで怖ぇよな。
まあ、万が一咬まれたって、ミーハには『解毒』があるから大丈夫だとは思うけど。でもミーハが咬まれたら大変だし。
「サソリは『劫火』で消し炭にするより、唐揚げが美味いんだろ?」
ぐいっと肩を抱き、ルナたちの方へ押してやると、ミーハは「唐、揚げ」と弱々しく言って、ふひっと笑った。
街に戻って、まずはメシ屋を探した。
ミーハが以前虹作ってやった、ガキのいる店がいいらしい。
「そこの唐揚げがウメーんだから、絶対そこだって!」
ルナがそう言ってきかねーんで、そのくせ場所の記憶は曖昧だっつーから、街中探し回るハメになった。
ふざけんなっつの。
「もう帰りでいーんじゃねーか?」
オレがそう言うと、ルナに「はあ!?」つってじろっと睨まれた。
なまじ顔が整ってるだけに、スゲー迫力。っつーか、コイツ、機嫌悪ぃーのって腹減ってるせいじゃねーの?
だったら、その辺の店で適当に食って、それからゆっくり探せばいーのに。ワガママか。まったくフリーダムだな。
タオと一緒だ。
そのタオは、「オレは肉食いに行くから」つって、勝手に1人だけ離脱してっちまった。
「は? 待てよ!」
そう言ったって、ヤツが待つ訳ねーし。追い掛けたって捕まえられる訳ねーから、もう諦めるしかなかったけど。
やっぱ天才って種類の人間は、みんなこんな感じでフリーダムなんかな?
肉食いてぇって。オレだって肉食いてーっつの、サソリじゃなくて!
けど、ミーハを残していけねーかんな。
ミーハはどうせ、虹を見せたっつー思い出の店に行きたがるに決まってる。じゃあ、オレが我慢するしかねーだろう。
はあ、とため息をつくと、オレの横でミーハが、ビクッと肩を揺らした。
「ん? どうした?」
訊きながら顔を覗き込んで、眉をしかめる。
ミーハは青い顔をして――また左手で、胸元をぎゅっと握ってた。
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