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55
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そこからルナたちの行動は素早かった。
ビクビクと痙れんするドラゴンの全身を縛り上げ、身動きできないようにして、更にくちばしも縛り付ける。
掲示板に貼ってあった依頼書は、確かピンキードラゴンの捕獲か討伐。あんま興味なかったし、しっかりとは見てねぇけど、多分捕獲の方が賞金が高ぇんだろう。
普通に考えりゃ、ドラゴンのあの巨体を王都まで運んで帰んのは一苦労だけど……ミーハがいるし。『転送』がうまく使えるなら、一瞬で終わる。
こんな巨大なドラゴン、ちゃんと『転送』できんのかって気はするけど、魔法使いは1人じゃなさそうだし、数人でやれば安心だろう。
それより、ミーハのコンディションの方が心配だった。
『転移』、『転送』、『帰宅』……。ああいう移動系は鬼門だったハズだ。トラウマにかられ、寂しい過去を思い出し、うずくまって泣いてたのが忘れらんねぇ。
『オレの家は、ここでいいんだよ、ね?』
縋るように訊いて、うなずいてやると泣いて、安心したように笑ってた。あの柔らかな体を、もうどんだけ抱いてねぇんだろう。
着々と縛り上げられてくドラゴンの前に立ち、油断なく杖を掲げるミーハを岩陰からじっと見る。
「よし!」
ルナが拘束具合をチェックして、完了を宣言した。そのルナが不機嫌丸出しにして、こっちを睨んだのはそれからだ。
「出て来いよ、いつまでこそこそ見てるつもりだ」
気付かれてた、と分かってギョッとしたけど、腹をくくって立ち上がる。
オレらの存在に気付いてたのは、ルナだけだったみてーだ。いきなり現れたオレたちに、他の面々は驚いてた。
ミーハも驚いてた。あの琥珀色のデカい目を見開いて、口をぽかんと開けて。……けど、期待してたような驚き方じゃなくて、腹の底がひやっと冷える。
「オリャー、来るなっつったよな。お前の為を思って言ってやったんだぜ?」
ルナがよく響く声で冷やかに言った。
気の強そうな端正な顔、キツイ眼差しがまっすぐにオレを射抜く。
「オレの為? ざけんな」
押し付けがましい言い方にカチンと来た。
ざかざかと歩いて、胸ぐら掴んでやろうとルナに近付く。それを「待て!」って止めたのはタオだった。
何だ、と思って振り向くと、真剣な顔してピンキードラゴンを見下ろしてる。
「コイツ違うぞ、アル! やっぱ2匹いる!」
「はあ!?」
ピンキードラゴンが2匹いる。そんなバカなと思いつつ、心のどっかでは納得もしてた。ああ、やっぱ、滝の向こうに消えたって思ったのは、間違いじゃなかったか。
近くで見りゃ確かに、このドラゴンの脚には傷がねぇ。いくら連中の治癒力が高ぇからって、こんなに早く、無傷の状態に戻るとは思えなかった。
「何の話だよ?」
顔をしかめるルナに、「もう1匹いるんだって!」とタオが喚く。その時、頭上に巨大な影が落ちた。
クエェェェ!
上空からの咆哮。身構える隙もなかった轟音に、全身がビリビリ痺れてくる。
痛いほどの音の中、けど、さすがに狩猟隊本隊の反応は早かった。一斉に立ち上がり、臨戦態勢で陣を築いて、それぞれの武器を構えてる。
全員に緊張が走る中、真っ先に動いたのはミーハだった。
「サンダー……」
サンダーアロー。さっきドラゴンを仕留めた魔法を、再び繰り出そうと杖を振る。
けど、それよりピンキードラゴンの方が速かった。
ゴウッと空気が唸り、とてつもねぇ風圧に襲われる。「うわっ」と腕で顔を庇いつつミーハを見ると、ミーハも同じように両腕で顔を庇ってた。
上等そうな布地の、ゆったりとしたローブの袖口から、ミーハの白い腕が覗く。強風にあおられ、ばさばさとなびくローブ。
「危ねぇっ!」
とっさに駆け寄り、腕を掴んで下がらせると、直後、ズシーンと大きく地面を揺らしてピンキードラゴンが降り立った。
その片足には、さっきオレがつけた傷が、まだ色濃く残ってる。タオの奮闘の成果か、ノドや胸が傷だらけだ。けど、どれも致命傷じゃねぇ。
拘束された片割れを庇うように、その側でオレらを威嚇するドラゴン。そのドラゴンに向き合って、オレはミーハを背に庇った。
再会の喜びは、後でたっぷり分かち合えるって思ってた。
オレやタオに気付いた感じじゃなかったけど、驚き過ぎたせいだろうって思ってた。
オレのやったブレスレット着けてねぇけど、きっと壊したら困るとか、そういう理由だろうって思ってた。
なんで家に帰って来ねぇんだ、って、理由も後でゆっくり訊きゃあいいって思ってた。まずは、ドラゴンだろ、って。
「ううりゃあああっ!」
ルナが大声を上げ、長剣を一閃する。
タオが赤いオーラをまとい、目まぐるしく双剣を振り回す。
ギュアァァァァ!
ピンキードラゴンが咆哮を上げ、爪で、牙で、反撃する。それをギリギリで躱しながら、更に攻撃する天才2人。
勿論、他の連中も負けてねぇ。剣を振るヤツ、矢を射かけるヤツ、それぞれがドラゴンの隙を見て、果敢に攻撃を繰り返してる。
誰かがオレの傷付けた脚に、思いっきり斧を打ち付けた。
ギャアアッ!
悲鳴を上げて、ドラゴンがガクリとバランスを崩す。けど、やった、と思う間もなくゴウッと物凄い風圧が来て、バッと上空に逃げられた。
黒々とした影が、オレらの真上に落ちる。
誰もが油断なく武器を構え、上空のドラゴンを睨む。
ルナが「今だ!」と大声を上げた。
「チビ! 『転送』!」
「トランスファ!」
オレの後ろで、ミーハが凛と呪文を唱えた。
目の前に横たわってた、拘束済みのピンキードラゴンの巨体が、パァッと白い光に包まれる。
それがこの場から『転送』されて消えた直後――。
「テレポート」
ミーハとは違う誰かの声が、オレの後ろで呪文を唱えた。
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