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くだらない
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「ぐー、すー、むぅ」
蝉の声が鳴り響き、空気が燃えるように暑い夏。
人間は一生懸命身体を動かすか、怠惰に過ごすかして一日を過ごしていた。
それを尻目に黒髪で白い肌の青年が気持ち良さそうに寝ていた。
ちゃぶ台に体を伏せて、手を伸ばしたまま、ぐっすりと……明らかに後者。
「パシャ」
音に反応したのか、耳をぴくっと動かし、それから上体を起こした。
まだ眠たそうに細い目を左手でこすると、ぼんやりと目の前に人の姿が見えた。
上が白く、下が黒い。首から四角い物を提げていた。
視界がはっきりとしてきてよく見えるようになった。
ボロボロでパッチワークのように布で継ぎ接ぎされた黒の学ランを着たやつ、首から提げた一眼レフのカメラを片手にこっちを見てニヤニヤしていた。
「何か用か、安倍(あべ)」
黒髪の青年は何気なく言い放つ。
すると、ボロボロの学ラン……バンカラの男子はまた青年に向かってシャッターを切った。
青年はバンカラを睨む。
「何か用って聞いてんねん」
怒ったように青年が言うと、男子はすっとぼけた顔をする。
「用も何も、今部活中だろ。写真部が写真撮ってなにが悪い」
それを聞いた青年はきょとんとしてしまった。
「いやぁ、文芸部なのに原稿用紙を枕をするやつの台詞じゃないんじゃないかい?」
「うっ」
青年は痛いとこをつかれたのか、胸を押さえる。
男子の目線が針のように刺さるから、泣きっ面に蜂だ。
「い、いや~頭を使いすぎると眠たくなるんよなぁ……」
青年はアハハと笑いながら、右頬を左手で掻く。
冷や汗が止まらない。
「嘘つけ、『頭を使いすぎたことなんてありません~』って、おでこにお~きく書いてるよん♪」
男子に人差し指を向けられたら、青年は何も言えなくなってしまった。
男子ははぁ~とため息をつく。
「あと、俺の名前は…」
と言いかけて男子は青年に近づき、首から提げていたカメラをちゃぶ台にダン、と叩きつける。
「あべ、じゃなくてあんばいだ。いい加減覚えてくれないかな、中竹(なかたけ)さ~ん」
冷たい声と細めた目に中竹はびくっとした。
静かに燃える青い炎に焼きつくされそうだ。
「そんなに怒らなくてもええやん。安倍(あんばい)くん……短気やと、女子に嫌われんで?」
中竹も負けじと低いトーンで安倍に言葉のボディーブローを打つ。
「少しぐらい成長したらええんちゃう?あ、ボロボロなやつ着とるから進化できんねや」
「……言うじゃねぇか、そこの中くらいの竹!」
安倍は大声を上げ、部室の扉の向こうを指差した。
「表に出やがれ、決着をつけてやる!!」
「はいはい、はぁ……」
これが二人の日常であり、ある意味の挨拶なのだ。
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