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いい子。
単純だけど、嬉しかった。
考えてみれば、あまり褒められた記憶は無い。
おじいちゃんとおばあちゃんの意に沿わぬことをして、
「どこの馬の骨か分からない父親に似た子」
そう言われた記憶はある。
よっぽどお母さんを孕ませて捨てた相手のことが、憎くて堪らなかったんだと思う。
ぼくさえ孕んでなければ、ぼくさえ産まれていなければ、今もお母さんは事故に遭わずに生きていたはずだからだ。
だから、ぼくはぼくの存在が「ダメな子」という認識をしていた。
『いまは、自分が何をしたいのかしたくないのか、じっくり考えるといいよ。』
だけど杉さんの言葉は、ぼくの中で深く刻まれた。
良い思い出も辛い思い出も、濃く漂う店から逃げ出すつもりだった。
優しい歩さんを困らせたくなくて、彼からも逃げるつもりだった。
全てを投げ捨て、全てから逃げるために店の鍵を返した。
「いい子、いい子。よく頑張ったね。」
「・・・ぅ、。」
涙が止まらない。
認めて貰うことが、こんなにも嬉しいことだったなんて、知らなかった。
「大丈夫、みんないるから。大丈夫だよ。」
杉さんの言葉が、全身に沁みていく。
「と、り・・・っ!ひとりじゃない・・・?」
「ひとりじゃないよ。おれもいるし、みんないる。」
ギュッと腕に力が篭った。
「それに、こんな素敵なことを考えるおバカな大人が、目の前で凄い顔して悔しがってるよ。」
え・・・?
顔を上げると、後ろから肩を引っ張られて、そのまま背後から抱きしめられた。
「ったく!俺がいるだろ!」
え。
杉さんも財津さんも山田さんも、笑顔で頷いた。
ぼくの体を蛇のように巻き取った歩さんは、みんなに聞こえるように宣言した。
「忍は俺の!・・・お前、いい加減俺が惚れてんの解れ。」
耳を齧られて、ビクッとなった。
「あーあ、忍ちゃん。新里は結構独占欲強いから、おもり大変だぞ。」
おもり?!
「ああ、たしかにそんな感じよね?ワタシは すずで手一杯だから安心して。」
「おれたちもだよね?」
「うん、お兄ちゃん。」
え?
え?え?
「さて、帰るかな。」
「あら不動産屋さん!年の数だけ豆を食べなきゃいけないのよ。」
え、ちょっと待って!
「年の数食ったら、口の中が腫れてしまうよ。」
「でも縁起ものだから、少し拾いますね。」
え、みんな待って!
「小夜ちゃんたちも、ちゃんと持って帰るのよ?」
「はい、暁さんが喜びます。今夜はビールが美味しそうです。」
「大輔さんも、このワサビ味好きなんだ。」
ちょ、ちょっと!!
「俺たちの分、残しといてくれよ。」
「もー、新里。お前も拾えよ。」
「やだ、両手両足塞がってる。」
待って待って!
「忍ちゃん、また遊ぼうな?コイツは真っ直ぐなヤツだから、背中預けるのは安心できるぞ?」
「加藤。背中じゃなくて全身、心から全部預けて良いと言っとけよ。」
え、え。
「これから、嫌になるくらい!めちゃくちゃ忍のこと愛しまくるんだから覚悟しろよ?」
みんなに聞こえないように耳元で囁かれて、背筋がゾワゾワした。
「そ、れって・・・?」
歩さんは答えずに、みんなにお礼を言った。
「皆さん、今日はありがとうございました。」
「また集まりましょうね。忍さん、またね!」
ちょ、杉さん!
行かないでっ!!
「ヤダわ、新里さんの目が鬼になってる。きっとあれは、いたいけな村の子どもを食う感じね?」
「でしょー?!あいつ体力バカだから、忍ちゃんが心配ですよ。」
え、えーーーーーーーーーーっ!!
山田さん、加藤さん、待って!
どういうこと?!
「忍さん、今度ゆっくり話しましょうね!」
待って、財津さん!!
まだお話してない・・・っ!
「忍ちゃん、しばらく新里さんと一緒に考えるんだよ?店の鍵は持ってていいからね。」
おじさん・・・っ!
「じゃあ、また。」
「忍ちゃん、またね!」
「ま、待って!連絡先・・・っ!」
手を伸ばすと、その手を歩さんから絡め取られた。
「ダーメ。みんなとの連絡先交換は、次ね。まだ俺の連絡先も登録してもらってないのに、先に交換されたら嫉妬でヤバイ。」
「・・・あっ!」
首筋に唇を落とされて、ビクッとなった。
「ふふ、ワタシたちは加藤さんから繋がるから安心してね?まずはその鬼をなんとかしなさい?」
山田さんはお尻をふりふり出て行った。
みんなも一緒に出て行って、お店にはぼくと歩さんだけになった。
「・・・さあ、豆まきの第3ラウンドだ。」
「ぁ、んっ!」
後ろから左頬を引き寄せられて唇を奪われた。
一気に深まるキスに、喘ぐことしか出来ない。
「二階に上がってもいいか?」
とろとろに溶かされたぼくは、歩さんの言葉に頷いた。
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