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49にしおりをはさみました!
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49
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結局最後まで日崎に引っ張ってもらって、前川の家についた。
田舎のだいぶ大きな家で、既に何匹か動物が見えていた。
「あそこの白いのがバニラで、今座ってるでっかいのがボスで──」
前川が説明してくれても、もう最初に教えてもらった猫の名前は覚えていない。
「もう、いい?」
「えっ、あ、うん!」
日崎が繋いだ手を軽く掲げて、いつまでも日崎と手を繋いでいたことに気づいた。
慌てて離すと手に冷たい空気が触れて寂しさが心に流れ込む。
──もうちょっと繋いでたかったのに。
でも、もう動物のかわいさで元気が回復したから口実がなくなってしまった。
「ほら、うさぎの赤ちゃん」
前川が段ボールのなかを指差す。
そこには合計7匹のうさぎの赤ちゃんと、お母さんうさぎがいて、真ん丸の瞳でこちらを見上げていた。
「かわい……」
意識せず出た言葉が日崎とシンクロする。
ふわふわを撫でまわしたい気持ちと、俺が触ったら壊れてしまいそうという気持ちが戦っている。
手を伸ばそうか迷っていると、前川が一際体が小さい黒いうさぎを抱きあげた。
「そうだ、この子はうちで飼うから名前つけていいよ」
「いいの!?」
うさぎの黒い輝く目がこちらに向けられて『良い名前つけろよ』とでも言っているようだった。
「俺は何回もつけてるからいいわ」
前川の家に小さい頃から通っているという橋元が辞退した。橋元がつけたのは『メロディ』とか『ドレミ』とか、果てには『ヤマハ』とか音楽にまつわるものばかりだった。
「日崎どうする?」
「──まこと」
「!?」
こいつなんで急に俺の名前……?
ただの3文字のはずなのに、何年もいろんな人に呼ばれ続けてる名前のはずなのに、日崎の口が紡いだ『まこと』に俺の心臓が一度大きく高鳴った。
「北田に似てるなぁ──って思って。
北田の髪みたいに綺麗な黒い毛並みとか、このまっすぐ見てくる感じとか」
「あー……似てる…のか?」
うさぎの話ね。
てっきり俺のこと呼んだと思ったじゃん。
「言われてみれば似てるかもな。ちっちゃいし」
「お前らがでかいだけだ」
橋元にもちっちゃいって言われたけど、170あるからな。ぎりぎり。
「まことはまだうちにいないからな。いいんじゃね?」
「じゃあ…それでいいです…」
まことも『まあ良いんじゃない?』という顔をしている気がする。
「よかったなー、まこと!」
俺は『北田』で、あいつは『まこと』。そしてまことはあんな柔らかい笑顔の日崎に可愛がられる。それが複雑ではあった。
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