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9にしおりをはさみました!
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9
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着いた先はちょっと田舎チックで、東京にもあったんだ、的な小川が流れている。真っ赤な夕焼け。眩しい。天然素材の明日の天気予報。逢魔が時。山の中腹にあるお寺。あと、………お墓。
「また墓場で運動会?」
礼介くんは答えない。脚長いのわかったから、そんな早く歩かないでよ。置いてかないでよ。
結局シカトこいてるし。礼介くんの馬鹿。
墓石に刻まれた角川の文字を見て、ああ道理で聖地になってる墓地はハリボテレプリカだったんだなあとわかる。礼介くんはポッケに指先を突っ込んで立ってる。お線香とか持ってきてないけど、いいのかしら。
「ただの石を見てもつまらないな」
礼介くんがすぐ引きかえそうとしたのでおれは服を掴む。
「ちょちょちょ、せめて拝んでこうよ」
「何故? 生憎僕は無宗教だ」
冷たい。サイコパス。ニヒリスト。レイシスト。
「そういう問題じゃないし。あの、……あのさあ、もしかして、今日だったの」
「何が」
「命日」
だって綺麗に掃除されてるし、お花が新しい。
礼介くんは黙っておれの髪を撫でる。罫くんが世界中で大流行した疫病で亡くなったの、それだけは知ってる。ようやく口を開いた彼が、熱心なファンじゃないな、なんて茶化すから、おれは怒る。
「知らないもん! 罫くんが……いなくなったの、おれがガキんときだし、日付まで覚えてないごめん! てか、わざわざ個人情報とか、小説以外のこととか、調べるほど限界ヲタじゃないし!」
「そのときって、君、何歳だっけ」
礼介くんは墓石を眺めながら、おれの薄い思い出を聞く。うーん。そのとき、おれの注目は他のとこにあって、生きるのにまだまだ必死で、身の回りで罹患した人も亡くなった人もいなかったから、話すことがそんなにない。当時のアニメとか歌とかなら、しっかり覚えてるんだけど。
「おれの話いいので、礼介くんと罫くんの話しませんか」
しゃがんで、手を合わせる。どうか安らかに。うわ、墓参りなんかしたことないから作法がわからん。柏手は絶対違うよね?
「しません」
「なんで」
「無意味だ」
イラッときて、おれは礼介くんを睨んだ。
「好きな人を偲んだら無意味?」
「それで罫が戻ってくるならいくらでも話すよ」
こんなものあったって、と礼介くんは呟いた。
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