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契り 14
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結月さんのお母さんのことで、何かあるのだろうか。
お祖母様が外と関わりを持たせないようにしているというのも、気にかかる。どういう意味なのだろう。
考えてみれば、此処には色々な分野の使用人さん達が多く雇われている。この屋敷の中で完結できてしまうのではないかというくらい。いくら大企業の創業元の家だからといって、この時代、他の良家でもあることなのだろうか。
僕は結月さんのことを何も知らない。まだ今の関係じゃ踏み込めない。いつか知れる時が来るのだろうか。
そんな事を考えながら、言われたとおり、モップを取りに倉庫へ向かう。
屋敷は二つの棟に分かれている。接客や会合にも使われる大広間をはじめ複数の客間や簡易オフィス、各人の仕事部屋などがある東棟。自室や寝室、書斎、キッチン、バスルームなど、主に私生活を過ごす西棟。倉庫は両棟を繋ぐ渡り廊下の手前に位置していた。
――そういえば神霜さんが西棟の二階には行くなって言ってたっけ。西棟に入らなければいいんだよね。物を取ったらすぐに出ていこう。
仕事だからしょうがないと、引き返そうとした足を戻して急ぐ。
静かな廊下に床の軋む音が響く。薄暗く、不気味な雰囲気が漂っていた。
いつもついているはずの廊下の電気が何故消えているのだろう。不思議に思っていると、かすかに呻く様な声が僕の耳に入ってきた。
ハッと足を止めて聞き耳を立てる。
西棟の手前から二番目の部屋……結月さんの寝室からだ。結月さんの身に何か……。
不安に駆られてそっとドアに手を伸ばした。
扉を開けた瞬間、背筋が凍る。
目に映ったのは、女の人を愛おしそうに抱く、結月さんの姿だった。
* * *
頭を鈍器で殴られたかのように、僕はショックでそこから動けなくなった。
目の前に広がる官能的な光景に目を奪われてしまう。
初めて見る結月さんの裸体。綺麗な白い肌が汗で光っていた。時々濡れた髪を掻き上げるから、嫌でも彼の表情が見えてしまう。
快楽に歪む眉。
キスを繰り返す整った唇。
妖しく女性を見つめる、僕の大好きな瞳。
首に腕を回しながら女性が結月さんの名前を呼ぶ。それに答えるように彼が腰を抱いた。
「……っ……し……おり……」
掠れたその声を聞いて、黒い感情が込み上げてくる。
――嫌だ、そんな甘い声で呼ばないで……!
結月さんに触らないで……。
見ていられなくてそっと扉を戻そうとした、その瞬間。
「……綺麗だよ……詩織……」
結月さんのその言葉に、目の前が真っ暗になった。
ガチャンと音を立てて扉が閉まる。
気づかれてしまったかも、なんて、そんなことを気にする余裕もなかった。
“……綺麗だよ……”
結月さんが女の人に言った言葉が、頭の中で何度もリフレインする。
僕はあの日、結月さんのその言葉に救われた。
それなのに、あんな簡単に、発せられた言葉だったの……?
閉じた扉の前に佇んだまま、気づけば、涙が頬を流れ落ちていた。
――僕は、結月さんが好きなんだ。
こんなにも、強く嫉妬してしまうほど、好きなんだ……。
一気に湧き上がる想いをどうすることもできず、暫くそこから動けなかった。
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