アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
優しい君にしおりをはさみました!
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
- しおりがはさまれています
-
優しい君
-
―日高明希―
高橋との酷い別れから三日、あれから高橋が姿を現すことはなく、校内で見かけるということもなかった。俺はというと、流石に三日であの出来事達を完全に抹消するというのは難しく、思い出しては握りつぶし、思い出しては握りつぶしの繰り返しである。
きっと、繰り返していくうちに完全に忘れてしまうのだ。忘れることに対しても何も感じなくなるんだ。
今は、まだ新鮮な思い出が、キラキラと眩しくみえるがいつか時間がたつうちに黒く濁っていき、最終的にはそこにあったということすら忘れてしまう。
きっと、高橋だって同じで、俺と同じように俺の事を忘れていく。
自分のその考えに心が痛んだ。自分は忘れたいと強く願っているのに、忘れられると思うと悲しくなる。
本当に勝手なもんだな、と自分に溜息をつく。
「日高?」
俺が、悶々と考えているところへ、秋原から声がかかる。秋原とはあの日からちょくちょく話をするようになった。と、言ってもまだ挨拶程度の会話をしているだけだが。
「え、なに?」
自分の世界へ入っていたため、呼ばれた事に少し驚き秋原の方へ顔をむける。
秋原は心配げにこちらをみていて
「なんか、お前あの日から溜息ばっかついてる気がするけど、あの日なんかあったの?」
と言ってくる。
自分がそんなに溜息ばかりついていると、他人に言われて初めて気づいた。無意識とは恐ろしいものだ、いったい俺は今日、何回溜息を付いているのだろうか。秋原に聞けば答えてくれるだろうか。
そんな、あほらしい事を頭の隅で考えながら、心は秋原の的を射た言葉にドギマギしている。
自分の心境を悟られぬようにと、わざと明るい調子で口を開く。
「え、なんかって?特に何も無かったよ。あれかな、まだ疲れが残ってるのかも。あの日帰ってすぐに寝たのに、おかしいな」
「ふーん」
秋原は納得したような顔をしたが、言葉の裏に疑いの色が見えている。
自分でも、わざとらしい返答になってしまったと思っているので致し方ない、納得したふりをしてくれる秋原に感謝だ。
変に詮索されたらどうしようかと思っていたので安心した。
「それならいいんだけど。あとさ、さっきの授業でわかんないとこあったんだけど」
秋原は俺の気持ちを察してか、すぐに話題をかえてくれたので、これ幸いと思いその話に耳をかたむける。
「え?どこ」
「ここのとこなんだけど」
「あれ?こんなとこやってたっけ…」
秋原が教科書を開いて見せてくるが、そのページは俺の開いていたページより一ページ先に進んでいた。
「やってただろ?まさか聞いてなかったのか」
秋原の言葉に戸惑う、そういえばいつ授業が終わったのかもはっきりしない。
授業は聞いていたつもりだった、だが途中から教師の雑談が始まり、そこから色々と考え出してしまった。まさか授業を再開していたなんて。
「日高…」
秋原が何か言いたそうに口篭るが、あまり深く追求しない方がいいと判断したのか、それ以上は口を開かなかった。
「あぁ、そういえば、やってたよな!うっかりしてた」
まるで今、思い出したかのように装って慌てて、声をあげたが逆にわざとらしいものになってしまった。
秋原の目線は痛いものだったが、気にしないようにして教科書の問いに答える。授業は聞いていなかったが予習はしているので難なく答えれる。
「ここは、そうじゃなくて」
「あぁ、なるほどね。じゃあ…」
答えていくうちに二人とも先程のことは忘れ、勉強の方に意識を集中することができ、秋原は
次から次へと疑問が湧いてくるようで、なかなかこの勉強会は終わりそうになく。俺も一人でいたらまた余計なことを考えてしまうので進んで秋原に勉強を教えた。
休憩時間もあと何分かで終了というところで、秋原の疑問もだいたい解決したようで
「日高ありがと、お前の教え方すげーわかりやすかった。前からお前に色々聞きたいとは思ってたんだけど、話しかけて正解だったわ」
と言ってくれる。
「いや、役に立てたみたいで良かった、また何かあたら聞いて」
そう言いながらお互いに教科書やノートを片付けだし、説明するために秋原の方へ寄っていた体を元に戻そうとしたときに、教室の雰囲気が変わったのを感じた。休み時間でザワついていた教室が少しだけ静かになった。
「あ」
と、小さく聞き取りにくい声だったが秋原がそうつぶやき、秋原の方を見てみると秋原は目線を教室の後ろの扉へ送っている。
「え?」
秋原の反応と、周りの異変が気になり俺も秋原の目線を追う。
自分の目にある人物が入り、目を見開く。
目線を追った先には、高橋がいた。
俺と高橋は何秒か視線を合せたが、その視線は高橋の方から切られた。
視線を切られたことで、今の状況を思い出し、まずいことになったと机に視線を戻す。
なんで、どうして、という言葉が頭の中をグルグル回る、やっぱり関わりたくない何て言ったのはまずかっただろうか。
そうこう考えているうちに高橋がこちらに近づいて来ているのが目の端に映る。
とうとう俺のすぐ横まで来るとゆう時に、何を言われるのか怖くて身を固めてしまうが、高橋は俺の横で止まることはなく、そのまま自分の席に腰を下ろした。
あれ?
俺は訳が分からなくて高橋を見るが、高橋がこちらを振り返ることはなく、教室の雰囲気も微妙なまま授業のチャイムが鳴った。
…話しかけてこないのか?
俺は、いったい高橋がどうゆうつもりでここにいるのかが全く分からず、これから何が起こるのかも想像できずに、高橋が振り返らないことをよしとし、どうにか高橋の真意を覗くことができないだろうかと高橋の背中を見つめた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
18 / 35