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優しい君にしおりをはさみました!
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優しい君
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ー日高明希ー
柚子の香りのする浴槽に身体を沈める。最近は柑橘系の香りが多いように思うが母の気分だろうか。それとも、セットになった商品でも買ったのだろうか。
柚子の香りはとてもいい匂いで、もしセットになった物だったらしばらく、いい香りの風呂が楽しめるな。
風呂は考え事をするのに、俺はとてもいい場所だと思う。
入浴剤の香りが当たりだとなおさら頭がスッキリしてよい。
しばらくすると、身体がじんわりと芯まで温かくなる。
熱を出すように、腹から「ふぅー」と息をはき一息つくと、ボーッとしながら色々と思考をめぐらせる。
面倒だな……と思った。
何がだ。と聞かれると、高橋とのメールが。
なんと返事を返したらいいのか分からなくて、メールが送られてくるたびに、あたふたと狼狽えてしまう。打つのにも時間がかかってしまう。
だから、とても面倒だ。と思ってしまう。
それにメールに気を取られて、まったく勉強に身が入らない。
それだけでも、もう結構まづいな、と思っていたのに、更にまづいことに期末試験の時期が来てしまった。
正直、もうそろそろ本気で勉強に取り掛からないとヤバイ。そう思い、極力ケータイを見ないよう心がけて、勉強中は絶対にケータイを出さないことにした。
そのおかげで期末試験は何とかなりそうだ。
でも……メールでは何も言ってこないが、高橋は俺とメールしてて楽しんだろうか、と考えてしまう。
全く返事を返せていないし、あまり時間を掛けられないから何時も同じような返しになってしまう。
俺がそんな愛想のないメールでも、高橋はまたメールをくれる。
そんな事を考えていると、高橋は何で俺なんかと友達になりたいと思ったのだろう。というところまで考えが至る。
高橋は他にも友達が一杯いるのに。
何故に俺?
最近教室にずっといるのは俺がいるからなのか?と考えると余計に訳がわからない。
何でそこまでするんだろうか。
あれかな……俺があの日泣いたりしたから、かわいそうな奴って思ったのかな。
学校でも友達いないし。そういうのがほっておけないタイプなのだろうか。だとしたらそれは同情、哀れみ、正義感。それらからくる優しさなのだろうか。
ふとあの夜、俺が泣いてたときにそばにいてくれた高橋のことを思い出す。
あの時、高橋から同情の色も、哀れみの眼も、正義感の言葉も何も無かった。
ただそばにいて、俺を撫でてくれてただけだ。
だから、俺は子供みたいに泣いてしまったんだ。
高橋には母性本能でもあるのだろうか。
だとしたら色々と納得できる事がある。あの時、キスされたのも(目尻にだけど)きっと母性本能からきているのだろう。よく女の人は動物とか子供にチュッチュしてるもんな。きっとそうだ。
あんななりで、母性本能なんて持ち合わせていたのか。
そこまで考えて、いやいやと頭を横に振りアホみたいな考えをおいやる。
高橋に母性本能⁇
高橋は女じゃないんだぞ。ただ優しいだけだろ。それで、きっとキス魔なんだ。キスが好きなんだ。だから無意識にしちゃうんだろう。動作も自然な感じだったし、きっと癖になってるのかもしれない。でも、癖になってるからって男の俺にするっていうのはどうなんだろうか。
いつの間にか問題点があの日の出来事の事になってしまっている。
あーもう……わけわかんね。
体温が一気に上がってしまったようで、頭がくらくらしてきた。このままでは、のぼせ上がって倒れてしまいそうだ。
浴槽から出ると、急に鼓動がうるさくなって目の前が歪んできた。あぁ、これは本格的にのぼせてるな。と思い片手を壁につき、身体中の熱が飛ぶのを待つ。
みっともないな。
最近はこんなことの繰り返しで嫌になる。いつか本当に倒れてしまいそうだ。そうなる前に少し風呂場での考え事は控えておいた方がよさそうだ。
身体の熱も冷めたところで、リビングに行くと、母が上機嫌で夕飯の支度をしていた。父さんの転勤の話が出てからこっち機嫌は良かったのだが、更にといった感じだ。俺が風呂に入る前はいつも通りだったのに、さっきの間に何かあったのだろうか。
「あら、もうお風呂あがたのね。もう夕飯できるから待っててちょうだい」
そう言う声色はいつもと変わらないような気もするが、どことなく雰囲気が華やかだ。
「父さん今日は遅いんだ?」
いつもは、父さんが遅いのは当たり前なので聞かないのだが、何があったのか気になるので少し鎌をかけてみる。父さんが関係してることなら、俺の方にもその波は来るということだ。
「そうなのよ、さっき連絡があってね。」
「へー。父さんが連絡入れてくるなんて珍しいね」
いつもなら、帰りが遅くなる位では父は連絡してこない。これは父絡みで何かあったな。と予想する。
「あー。そうそう、それでねこの前お父さんの転勤の話がでてたでしょ?あの話が正式に決定したみたいなの、だからその報告も兼ねて連絡してきたのよ」
なるほどな。まぁそんなところではないかと思っていた。
「そうなんだ、日程とかも決まったの?」
「7月入ってすぐに転勤先で動かないといけないみたいだから、お父さんが東京に行くのは6月の中旬あたりかしら」
「6月中旬ってもうすぐじゃん。」
「そうね。特に準備もいらないみたいだし、こっちでのお勤め終わったらすぐに行くみたい 」
「へー」
話しているうちに夕飯の支度がととのったようで、俺と母は共に椅子に座り、箸をとった。
「それでね、前にお母さん、友達との旅行をあの人に反対された時があったでしょ?あの人が東京にいる間に行ってこようかと思うのよ」
母がおもむろに口を開きそう言った。
そういえば以前はよくその話題で2人は言い争っていたな、と思う。父があまりにも頑なに反対するので、母も最近は何も言わなくなっていた。
流石に、俺もあの時は理解の無い父に呆れたものだ。
「いいじゃん、行ってくれば?」
俺がそう言うと、母は顔をパッと輝かせ「よかったわ、じゃあこの事はあの人には秘密よ?」と俺に念を押した。
「大丈夫だよ。絶対言わないから」
俺がそう言うと、母は嬉しそうに笑いながら、旅行の計画をペラペラと喋り出した。
予定では二泊三日で沖縄らしい。
沖縄のパンフレットを眺めていたのを、よく見かけていたのでよほど行きたかったのだろう。
へそくりも貯めているようだし、好きなだけ行ってくればいい。
俺は、そう考えながら食事を済ませた。
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