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【一歩】-11にしおりをはさみました!
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【一歩】-11
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ゴトンッと大きな音がして、智明は反射的にミラーを見た。幸平に被せたはずのヘルメットがなぜか彼方後方へと転がっている。
「え?幸兄?」
智明がブレーキをかけた瞬間だった。あっと思ったときには幸平の腕が離れ、体ごと後方に倒れていくところだった。
「危ない!」
果たして声になっていただろうか。愛車のYAMAHASR400が横滑りして前方に飛んでいく。それはまるでスローモーション再生でも見ているかのようだった。
智明自身もコンクリートに激しく腕と肩を打ちつけたが、それよりもピクリとも動かない幸平の元に駆け寄りたくて、必死に手足を動かした。
息を切らしようやく辿り着いた時には、幸平の胸は僅かにだが上下していた。震える手でなんとか119のボタンをタッチする。会話の内容なんて覚えていない。それでも目立った外傷がなかったから、智明は気を失っているだけだろうと何度も幸平の名前を呼び続けた。
次第に智明の周りは賑やかになっていった。救急車が来て、眠っているように穏やかな表情をみせる幸平の体を、救急隊員の男たちは智明の手の中からあっさり攫っていった。嫌だといったのに、容赦なく淡々と儀礼のようにそれらは執り行われていった。
智明自身も救急車に乗せられて、血圧だの心拍数だのを次々と測られた。自分は大丈夫だから幸平の元にいさせてくれという懇願は、残念ながら最後まで受け入れられることはなかった。
運ばれた病院は同じだったが、幸平とは別々の場所に連れて行かれた。タンカーから力なく垂れ下がった幸平の細い腕が目に焼きついて、姿が見えなくなった後も、いつまでも智明の脳裏から消えることはなかった。
次に幸平と面会したときには、肌の色も体温も智明の知っている幸平のそれではなくなっていた。頭ではわかっているのに、とてもじゃないが現実として受け入れることができなかった。
自分のせいで――自分がバイクに乗せたから、だから幸平は死んだ。
洋之に責められても何もいい返すことはできなかった。それどころか葬儀に自分が参列していいものか、智明は直前まで悩み続けた。しかしそんな智明を「逃げるのかよ」と引きずって幸平の棺の前に連れ出したのは洋之だった。そして固まって動けなくなった智明を会場の外に引っ張り出したのもまた洋之だった。
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