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初めてだからドキドキしてるだけにしおりをはさみました!
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初めてだからドキドキしてるだけ
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人の気持ちを操作するのは意外と簡単なのかも知れない。
フラッシュバックと言うのか、匂いだったり、色だったり、誰かの何気ない一言だったり…
些細な事で強制的に引きずり出される記憶。
その記憶の大半は、楽しい物とは言い難い。
それを苦痛に感じる事はなかった。
ただ、うんざりした気持ちになるだけで、後悔もなかった。
自分を可哀想だとも思っていない。
それは恐らく、周りも自分と同じくらい汚れていて、同じくらい惨めだったからだろう。
だからこそ相反する物に触れた時、人は自らを恥じるのだと逸郎は思い知る。
逸郎の手は頭には乗らなかった。
代わりにその指先が英介の顎にかかる。
軽く力を加えられ、誘われるまま、英介は素直に顔を上げた。
ふわりと重なる感触。
その感触を味わう間も無く離れて、また重なる。
温度が伝わるギリギリで逃げていくその感触がもどかしくて、強請る様に英介の唇が吐息を含んで開かれた。
「はい。おしまい」
言葉と同様に呆気なく鼻先の温もりが離れる。
英介は夢から一気に引き戻された気になった。
薄く開いていた瞼を精一杯見開くと、逸郎は何事もなかった様に先ほどと同じ距離で頬杖をついていた。
「なに?」
上目で伺うその顔は、特に含みのある笑みを浮かべるわけでもなく、誘う様な瞳をしているわけでもなかった。
あまりに冷静な逸郎の顔つきとは反対に、英介の心臓はうるさいくらい高鳴っていた。
「なに…って、え?なに?今の…?」
「ん?年相応の慰め方——」
そう言うと、逸郎はなんのためらいもなく英介の向こう側にある参考書へ腕を伸ばす。
また距離が近づき、英介は身体を強張らせたが逸郎は全く意識などしていない様だった。
「はい。ここの公式使って——」
「いやいやいや……」
涼しい顔で差し出される参考書を英介は、慌てて払いのける。
「いや、あの…いや、無理!無理だから!」
「無理じゃない。ちゃんと、ここにこの6を置き換えて、イコールの前に——」
「そうじゃなくて…」
「キスのこと?」
あまりの不意打ち発言に英介の顔が一瞬で紅潮する。
必死に答えを求める内に詰めて居た距離に気づき、ハッと身を引いた。
その様子を見て、逸郎はやっと表情を崩す。
「まさか、ファーストキス?」
既に紅くなっていた英介の顔にこれでもかと言うくらい熱くなった。
それだけで充分だ。
逸郎が大きなため息をつく。
「そりゃ、悪かったな…」
言葉とは裏腹に、全く悪びれた様子のない薄い笑みに英介は俯いた。
「別に…責めてるわけじゃ……」
「大丈夫。勘違いだから」
「え?」
目を丸める英介を、逸郎は睨む様な目つきで見返した。
元々、鋭い目つきなのだから、普通に見られているだけでもそう見えるのかも知れない。
ふと、イッちゃんって、こんな目してたっけ?と思うと、集まった熱が英介の中から急速に引いていく感覚がありホッとする。
「勘違いって?」
「初めてだからドキドキしてるだけ」
気持ちを見透かされている事に、引きかけた熱がまた身体中を駆け巡る。
紅くなった顔の言い訳も見つからず、英介が黙っていると、逸郎がまたわざとらしいため息をついた。
「英介は、本当に馬鹿で鈍いな…よく考えろ。普通は、男にキスされたら怒るだろう?つーか、怒れよ。そんなんじゃ、いつか犯されるぞ」
「はっ!?おかっ…えっ!?」
「いいから、次は怒れよ?」
そう言うなり、英介の唇に二度目の熱が重なった。
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