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それでも、俺はして欲しい!にしおりをはさみました!
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それでも、俺はして欲しい!
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あの日以来、逸郎は英介と目を合わせようともしなくなった。
翌日に授業はあったが、中間考査の答え合わせをし、間違った問題の復習をしただけだった。
その期間は、数学以外の教科も特別に指導してもらったが、逸郎はどの教科もスムーズに対応出来た。
「凄いね!古典とか日本史も教えられるんだ!」
無理矢理に明るい声を出して英介が言えば、逸郎が極力口を開かずに答える。
「必死で勉強したからな…」
「でも、確かイッちゃんの学部なら……えっと、日本史とかいらないんじゃない?」
冷たい態度にめげずに英介は食いついてみたが、逸郎は眉間に皺を寄せる事すら面倒そうな無表情のままだった。
「どの大学、どの学部に行かせてもらえるかもわからなかったからな」
「えっ、それって——」
「もう、いいだろ?集中しろ」
全てがどうでもいい様な逸郎の声に遮られて、英介は黙り込んだ。
こんな日が暫く続いていた。
家庭教師の時間にしか会ってくれないと逸郎は言う。
それなら、いつ話せばいい。
いつになったら、離れていた時間を埋められる。
逸郎は何度も勘違いだと言っていた、それはまるで自分に言い聞かせているようだと英介はふと思った。
あんな顔を見てしまえば、そう思うのも当然なのかも知れない。
泣きそうな——迷子の子供みたいな顔。
例え、逸郎の言うようにこの気持ちが勘違いだとしてもいいんじゃないか
もし、後悔することになってもいい——
逸郎の傍にいたい。
逸郎の傍にいてあげたい。
その気持ちに嘘はない。
「先生—」
彼を逸郎と気付いて以来の呼び名に、虚をつかれた逸郎が顔を上げる。
あの日以来、約10日ぶりに二人の視線が絡み合う。
「どうした?」
動揺を隠しているのか、それとも本当に何も感じていないのか、能面の様な顔で見据えられ、英介の顔に熱が集まる。
「ちゃんとやったよ…」
だから——と、声を詰まらせて差し出した英介の手は微かに震えていた。
68点の答案用紙。
逸郎は軽くそこに視線を落とすと、小さく笑った。
「この点数で…?」
嘲る様な声と笑みに泣きそうになる。
「これでも、前回より50点以上も上がってる…」
「まあ、それもそうだな…」
答え合わせをした時点で、厳しく採点しても50点を超えて居る事はわかっていた。
だが、その時も逸郎は"よくやったな"や"がんばったな"と言う言葉はかけてくれなかった。
今回もそれだけ言うと、また目を逸らそうとする。
—また,イッちゃんが離れて行っちゃう!
それは、頭で考えるよりずっと早かった。
気付いた時には、二人の唇が重なっていた。
押し付ける様な食いつく様な不器用なキス。
それでもその感触をもっと味わいたくて、首を反対側へと動かそうとしたその時、英介の身体が強い力で押し退けられた。
「何考えてんだ!?」
そう怒鳴ったのは、思い切り尻餅をついた英介ではなく逸郎の方だった。
眉を釣り上げて、珍しく感情的な顔になっている。
「何度も言うけど、お前は違う。俺に合わせる必要ないんだ!もう、あの頃の憧れを今の俺に重ねるのはやめろ!!」
呆然と見上げる英介ににじり寄る足が、ハッとした様に止まった。
感情的になった事を悔やむ様に唇を結びながら、逸郎が顔を背ける。
怒っている時もそうだったが、やはりその目は迷子の子供の様だと、英介は思った。
「別に合わせてるわけじゃない…ちゃんとできたら、キスしてくれるって言った」
最早、意地でしかない。
先程まで震えていた英介はどこにいったのか、今は頼りない顔を精一杯凄ませて逸郎を睨んでいる。
そんな英介を逸郎は伏目で伺う。
「それは…からかっただけだ……悪かった…」
「それでも、俺はして欲しい!そのためになら、頑張れる!!」
何かを振り切ったのか、強く言い放つ英介に逸郎は深い溜息をついた。
「もう、無理だ…限界だな…」
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