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✽溜色と満月✽ 3にしおりをはさみました!
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✽溜色と満月✽ 3
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近衛が帰宅したのは深夜1時を回った頃であった。緊張の糸が切れたのかはたまた気疲れか、どっぷり疲れていて、屋敷に着き玄関戸を開けるなり大きく息を吐き出すと居間から那由多が出てきた。
「お帰りなさいませ、」
「待っててくれたのか。寝てて良かったのに」
「ふふ、明日は寝坊致します故、大事ないですよ。お寒かったでしょう、居間で暖まって下さいませ」
にっこり微笑むその顔を見たら疲れが吹き飛ぶ様であった。トシとみきの姿が見えず、朝も早い二人を先に休ませたのだろうなと居間のソファーに腰掛けた。
那由多は「どうぞ」と茶を置くと、またさっと何処かへ行き、少し経つと「お湯熱くなりましたよ。どうぞ」と声を掛けてきた。私が帰る時間を考え、風呂に薪を焚べてくれていたのだろう。外は深々と冷えていた。那由多も冷たくなっただろうと近衛は立ち上がると那由多の手を引いた。
「一緒に入って背を流してくれるか?」
「ふふ、では変わりに今日のお話しをお聞かせ下さい」
風呂に入ると近衛は那由多に頼まれた通り、今日の大婚二十五年式典の様子を話して聞かせた。
「皇后様のローブ・デコルテが素晴らしかった。銀糸やスパンコールを用いた立体感のある刺しゅうでな、菊やオミナエシなどの秋草と籬を表し、袖と脇から背面にかけて、銀糸で小葵に菊模様の織物が用いられていて、とても上品で美しかった」
式典を彩った皇后の中礼服(ローブ・デコルテ)は、この当時の国産技術を結集してつくられた最高級品の一つだ。西洋化を受け入れながら、日本の伝統文化や国内産業を守ろうと、菊花を中心とした伝統的な日本の文様を表現した日本製のドレスは二年かけて調製されたもので、日本の伝統技術が細部に至るまで織り込まれていた。
「式典には、総銀地の屏風や百の寿字が表された銀製の花瓶を置いて、引き出物も銀製菓子器など、初の銀婚式にちなんだ品々を用意したんだが、陛下は銀婚式という式典名に難色を示されてな。結局、大婚二十五年式典という名称になったんだ」
「何がお気に召さなかったのでしょう?」
「...さぁな、同じ文言を使うと西欧諸国に感化されてると思われるからか、日本独自の文化をという陛下なりのお考えがあるのやもな。けれどワインはお好きなんだ」
「...わいん...とは?」
「西欧の酒でな、葡萄という果実で作る酒なんだ。明日持って来る故、一緒に飲んでみよう」
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