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✽溜色と満月✽ 2
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明治27年、明治20年代の式典で最も大きい行事が執り行われる事となった。
明治天皇と皇后の御成婚25年を祝う式典、大婚二十五年式典だ。
近衛は式部職次官となって初の大仕事に張り切っており、この数ヶ月書物を読み漁ったり、那由多を連れて西洋のコース料理を食べ歩いてはマナーや味を確認したりと余念がなかった。
というのも、銀婚式は日本にはなかった習慣で、西欧と同じ夫婦像が日本にも根付いたことを西欧諸国にアピールする狙いがあったからだ。
西洋風の銀婚式を取り入れて国家的規模で皇室の御慶事をお祝いする初の試みであった。
来る3月9日。近衛は大礼服に身を包み、少し緊張した面持ちでいた。那由多は「大事ないですよ」と何時もと同じ様に左右の頬に唇を寄せ、にっこり笑んで「行ってらっしゃいませ」と近衛を送り出した。
近衛は宮中へ着くと念入りに式次の確認や料理、セッティングに至るまで自らの目で確かめ、其々の担当長と流れを綿密に打ち合わせをし、ついに式典が挙行された。
午前11時、天皇・皇后は鳳凰の間に出御され、有栖川宮熾仁親王をはじめとした皇族方や、内閣総理大臣ら200余名の拝賀を受けた。
その後、在日外交官を通じて外国元首からの祝賀を受けられ、午後になると天皇・皇后両陛下は同じ馬車に揃って乗られ青山練兵場にて観兵式に臨まれた。
還御後、午後7時過ぎより式部長の先導にて豊明殿へ入られ祝宴が催され、式部職楽隊部が音楽を奏で、用意された料理は13品にのぼり、今回初めてオードブルにキャビアが出された。
立食形式での晩餐をしながら各国の使臣夫妻等と両陛下が御歓談されるのに近衛は付き従い、午後10時、正殿にて舞楽を御覧になられ、これで式典も恙無く終わりそうだと近衛は太平楽の鑑賞中周りを少し見回した。
正面中央の台座に着席された天皇の右側には皇族男子及び、宮内大臣をはじめとする高官・外国使臣とその夫人が。一方、皇后の左側には皇族女子が陪席している。舞楽の陪覧者は男子1072人、女子136人に上った。
天皇と皇后が並んで座られる事も、同じ馬車に乗られるのも此度が初めての事であった。理由は、天皇が皇后と同じ高さの玉座に座ることを承服しなかったからだ。
ある時、天皇の玉座の下に絹が敷かれていて高さを出しており、それ程に天皇は皇后と平等に扱われる事を嫌った。なれど井上伯がこれに怒り、その絹を部屋の角に投げて大変な騒ぎになった。
あの時はどうなる事やらと一抹の不安を覚えたが、これで恙無く終われそうだと近衛は少し息を吐き出した。
天皇の右手列を眺め、恐らくあれは父上だなと朧げにしか見えぬ目でも分かり、近衛はスッと視線を逸らした。
肩章を装着した立襟型の燕尾服。襟章や袖章の紫色は公爵の爵位を表し、紫色の袖章をつけられる者は11名と少ない。
今日は話す暇はないであろうが、出来る事なら顔を合わせたくはなかった。
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