アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
✽紅椿と懺悔✽ 5にしおりをはさみました!
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
- しおりがはさまれています
-
✽紅椿と懺悔✽ 5
-
「...私は心を決め、もう思い出しませんと加藤様にお約束をし、篤忠様への想いを胸の奥に仕舞い込みました。それがさゑ様の為にも、自分の為にもなると思うての事でしたが...、ただ、私が楽になりたかっただけなのやも知れません...」
自嘲気味に笑うた那由多の目からは止め処無く涙が流れている。時折紅椿を見ては辛そうに顔を歪め、近衛はそれを疑問に思うてはいるが、口を挟まずただじっと那由多の話しに耳を傾けた。
「それからは、真の情人の様に加藤様に添うていき、加藤様もお子を望むさゑ様の願いを叶えようと努めて下さいました。...なれど、一年程経つと、飽きられたのか、篤忠様も御存知の通り、私は客を取らされる様になったんです」
その理由は飽きたからではなく金に困窮したからだろうと近衛は思うていた。華族は特権も多いが、社交会だなんだと華族としての体面を保つためには多大な出費を要するからだ。金に困窮しても生活水準を落とせず、没落する家も多い。
これだけの屋敷を構えながら、女中が一人というのは先より金の工面が難しくなっていたのやも知れない。
「...一年尽くし、篤忠様の事をも思い出さぬと誓ったのにこの仕打ちかと、深く失望しました。私は所詮、ただの道具なのだなと。...それからというもの、昼間はさゑ様のお側に居て、夜毎客を取り、屋敷に戻ってからは加藤様の御相手をしなければなりませんでした」
その言葉に近衛は思わず深く息を吐き出した。精神的にも肉体的にも苦痛であっただろう。思い出すと辛いのか、那由多はしゃくり上げながら泣き出した。
「...っ、お目の、見えないさゑ様はっ、屋敷に居る人間を、匂いで嗅ぎ分けて居られたんですっ。分かっていたのに...っ、自分の事で一杯一杯になった私はっ、日毎続くそれに、疲れ果ててしまって...っ、寝不足で、日に何度も身体を清める体力が、ありませんでしたっ」
胸を上下させむせび泣く姿を見て「...無理に話さなくて良い」と声を掛けるも、那由多は首を振り、幾度か大きく息をした。
「...もうその頃には、加藤様もさゑ様の寝所に行かなくなっていて、どうしてもお子を授かりたかったさゑ様が、今夜だけは早くお帰りになって欲しいとお願いした日があったのです。...っ、そんなさゑ様に、加藤様は酷い言葉を浴びせました。さゑ様は泣き叫びながら暴れられて...っ、お止めしようと触れた私の手を振り払い、言われたんですっ...っっ、」
泣きじゃくる那由多が余りに悲痛で、「ゆっくりで良い、息を吸え、」と近衛は何度も涙を拭ってやったが、那由多の涙が止まる事はなかった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
39 / 48