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✽古よりの教え✽ 2にしおりをはさみました!
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✽古よりの教え✽ 2
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昼餉を食べた後、那由多はトシとみきと一緒にたくさんの梅の実を大きさや色味、傷の有無を見て分けると、水で洗い竹串でへたを取り始めた。
「トシさん、私も梅酒を作ってみたいのですが、お教え頂けますか?」
「ええもちろんですよ。これだけあれば色々出来そうですね。手分けして作りましょ」
トシの作る梅酒は絶品だ。近衛はそれが好きで、特にこの時期から暑い夏にかけては食前酒に良う飲む。美味いと笑む顔を思い浮かべたら、自分でも作ってみたくなったのだ。
「...あの、旦那様には許可を頂きますので、私も何か作って家族に少し持って行っても良いでしょうか?」
「こんなにあるんですから、許可など頂かなくても旦那様はお許し下さいますよ。少しと言わずにたくさん持って行って差し上げて下さいませ」
みきは車夫の父親が怪我をして働けなくなった折から住み込み女中をして家族を支えている。弟も商家で丁稚奉公しているが、それでも貧民街で暮らす家族の生活は一杯一杯だ。
那由多の言葉にみきは「ありがとうございます」と頭を下げると嬉しそうに笑うていた。
みきが家族の事を話したことはないが、年若くから働く者の家の暮らしは容易に想像がつく。那由多もトシもそうであったからだ。
明治23年の第1回帝国議会で、政府は「窮民救助法案」を提出した。最初の国会に政府提出の第1号法案として出しているところを見れば、明治政府も貧困対策は大事だと考えていたのだろう。
なれど結果としてこれは反対され、否決となった。
議員が反対した理由は、困窮に陥ったのは、その当人が働き、貯蓄をするという努力をおこたった結果だと考えたからだ。当人が怠けた結果である貧困を税金を使って解決するのはおかしい。貧困は自己責任であって社会の責任ではないとの結論に達したのだ。
近衛も良う言うているが、議員の殆どが上流階級の者で、貧困とは縁遠く、最下層の者達の実状を知らない。食うや食わずやな生活、働いても稼げる日当は極僅か。近代化が進んでも、貧困層の者達の暮らしは昔と何ら変わっておらず、貧富の差は増すばかり。産まれ落ちた家でそれは決まり、貧しい家に産まれ、そこを抜け出せる者など極稀だ。
「梅干しを漬けて一瓶持ってお行きなさいな。とかく夏は腹の病になりがちですからね。梅干しを食べると食傷をある程度防げますよ!」
年長者の知恵か、だから夏になるとトシは料理に梅を多く使うのかと納得がいった。梅は実に万能だ。
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